【胆振東部地震特集その4】JR新琴似駅からススキノ・中島公園まで 地震当日“テクテク”ルポ
胆振東部地震発生当日、本誌の古株記者が市内を“テクテク”歩いた、リアルな記憶を綴る。
死ぬところだったじゃないか!
グラグラッと来る瞬間、ガバッと上半身を跳ね起こすや右横のタンスを両手で押さえた。下敷きになるのを防ごうと思ったからだ。揺れがおさまると真っ先に、スマホの位置情報をオンにし、この時のためにと、そばに置いている懐中電灯を探した。ライトをつけて「アッ」と叫んだ。数十秒前、ぼくの頭があった枕は崩れた本の山に埋もれていたからだ。へたすりゃ死んでいたかも知れない……。
居間に出てみると食器が棚から飛び出し、床に破片が散乱。玄関に続く廊下は古い本箱が半回転して姿見を直撃し倒壊、ガラス片と本が床を埋め尽くしていた。
これでは外に逃げられない。妻にスリッパを借り、転げそうになりながら、やっとの思いで玄関にたどり着き、靴を履き、ドアを開け放っしにした。
夜が明けてから割れた瀬戸物とガラス、本棚と姿見、本をかたづけ、家の中に通り道をつけた。だが、停電しているので、掃除機が使えない。わが家は地震後、3日間、土足生活を余儀なくされた。
ぼくは札幌市北区、JR新琴似駅の近くの古いマンションに住んでいるのだが、このたびのブラックアウトで都市機能の脆さを思い知った。まず、水が出ない。したがって、風呂にも入れず、トイレも流せない。エレベーターもストップ。内階段を何度も部屋のある7階まで上がり下がりした。
そうだ!会社まで歩いてみよう
わが家には幸い、サンマの缶詰とインスタントラーメン、乾麺はある。水は管理棟まで行って水道水をやかんやポットに汲んできた。
さて、これからどうするか。くたびれたおっさんが家にいてもやるべきことはない。そこでハタと思いついた。
「そうだ、途中気になったことをルポしながら、歩いて会社まで行ってみよう」
地震発生から6時間後、スワローズのキャップ、ズックのリュックに、量販品のスニーカーで足もとを固め、カメラ代わりのアイフォンを手に、GO!
交通機関は、JR、地下鉄、バス、全てがストップ。新琴似駅も麻生駅も堅く扉が閉まっている。信号が止まっている交差点は、東南アジアを思い出し、度胸とタイミングで渡り、一路南へ。地下鉄南北線が下を走る北35条西3丁目付近の道路がところどころ陥没している。「なぜ、ここだけが」と思いながら、写真を撮る。
札幌新道を越え、樽川通に出るとヤマダ電機に人だかり。列の1番後ろにいた係員に尋ねると「電池、懐中電灯、そして水をお買いもとめになるお客さんです。でも、いまからお並びになっても、売り切れですよ」とのこと。北25条にある酒屋は商品を片づけている最中だったが、店員さんの背中は哀しそうだった。
次に24条の北区役所に行ってみた。人がいっぱいいる。ロビーでは大勢がテレビにくぎ付けだ。区役所内の売店も大人気。広報の人がいたので、近くの町内会で耳にした気になる話を聞いてみた。
「北区がもうすぐ断水になるんですか」
「えっ、そんな情報は入っていませんが、ちょっと待っていてください…。いま確かめましたが、そういうことはありませんよ」
デマだった。
市役所は超満員、道庁はそうでも…
「疲れた~」。北20条でタクシーを拾い、いったん南9条西1丁目の財界さっぽろに上がり、一休みしてから再度、会社からススキノを抜け、駅前通、狸小路、大通公園、市役所、道庁、札幌駅北口まで歩く。
ススキノは普段から昼間は静かだが、人通りはいつもより一段と少ない。ホテルの宿泊者らしい人たちが数人単位でお菓子などをレジ袋に入れて持っている。彼らの出てくる先を探すと狸小路のドン・キホーテに行き当たった。この日の街中の商業施設で、ここは異空間だった。
「んっ」車両進入禁止の狸小路4丁目に車がいる。商店街がハイブリッドカーを使ってモバイルの無料充電をおこなっていたのだ。
札幌で1番地価が高いといわれているのが、南1条通と駅前通の交差点。路面電車の軌道内に入って360度見わたしたが、人も車もガラ~ン。その一方で、大通公園には人がいた。3丁目では観光客がかき氷を求め並んでいた。
次に訪れたのは、札幌市役所。行って驚いた。庁舎の外まで人、人、人。1階ロビーも人で溢れかえっている。上田文雄前市長の退任の時以来の混雑ぶりだ。みなさん、携帯やスマホなどの充電をしに来たのだという。それでは、あちらはどうかと思って、札幌グランドホテルの中を抜け道庁本庁舎へ。
「あれっ、普段とさほど変わらないぞ。充電だってしてくれるのに」
最後は札幌駅と隣のバスターミナルに足を運んだ。一言でいうと閑散。人目につかない隅で床に寝そべる人がいる程度。観光客は避難所に誘導されたのだと思いたい。帰り道はタクシーでと思ったが、乗り場は超満員で車はほとんどいない。ぼくがタクシー難民になってしまった。
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