【本誌未掲載】“芸能事務所もサッカークラブも、仲間づくりは同じ”

『水曜どうでしょう』ミスター・鈴井貴之×野々村芳和・Jリーグチェアマン特別対談“延長戦”

鈴井貴之氏(左)と野々村芳和氏(右) ©財界さっぽろ

『水曜どうでしょう』の“ミスター”でおなじみ鈴井貴之氏は今年、北海道コンサドーレ札幌社外取締役に就任。同クラブの活性化に向けて取り組んでいる。同クラブをJ1リーグ定着に導き、今年3月にJリーグチェアマンへ就任した野々村芳和氏との60分にわたる対談では、芝居や映画・ドラマを多数手がけてきた鈴井氏が、サッカーの試合を「作品」と呼ぶ野々村氏とサッカー界の発展などについて大いに語った。

 本編は月刊「財界さっぽろ」2022年10月号「30周年特集・その先のオフィスキュー」で掲載するが、ここでは紙幅の都合から掲載できなかった部分を公開する(司会は財界さっぽろ編集部)。

地方クラブの発展が地域の発展につながる

 今年5月に北海道コンサドーレ札幌の社外取締役に選任された鈴井貴之氏は、長年にわたり同クラブを応援し、時間の許す限りプライベートで試合を観戦。クラブ主催イベントへの出演などを通じ昨年9月には公式サポーターにも就任していた。社外取締役就任後、週に1回は事務所に“出勤”するなど意欲的に取り組んでいる。

 一方、2013年から同クラブを牽引してきた野々村芳和氏は、Jリーグ初の「OB社長」として、同年から昨年までの9年間で売上高を3倍に、選手獲得費用や年俸となる強化費を10倍に増加させた。その手腕を買われ、今年3月にJリーグ第6代チェアマンとして采配をふるっている。以下、一問一答。

   ◇    ◇

 ――北海道内では少子高齢化や過疎化が他地域よりも進み、サッカーを実際にプレーするきっかけが減っています。

 鈴井 まさに今、知恵を絞っていろいろ取り組んでいく必要があって、たとえばコロナ禍で各業種のみなさんが不自由を強いられてきました。でも新しい展開方法も発展していますよね。在宅で仕事も会議も成立することが増えましたし。

 子どもたちにサッカーを教えるにしても、コーチが手取り足取り教えるだけではなく、映像を見て見よう見まねでできることもあるかもしれない。実際、動画サイトでいろいろなレッスンがあって、それを見て練習している子どもたちもたくさんいると思います。新しい方法を考え出して、諦めさせないということが一番大事。「地方だから無理だよ」と言わせないことです。

 どうやったら可能性があるのかをもっと積極的に大人が考えなくてはいけない。クラブの問題というより行政であるとか各地域の大人がもっと考えていかないといけないことだと思っています。

 野々村 サッカーの魅力自体が下がっているわけではないんです。もっと多くの情報を届けるそ必要もあるし、そのために使えるものはたくさん使っていくほうがいいと思っています。

 そういった意味で、Jリーグの58クラブがどう露出するかについては、まだまだやれることが多いと思います。いろいろな理由からですが、サッカーの試合をテレビの地上波で見ることができなくなりつつある現状があるけど、もっと増えるようにするにはどうしたらいいのか考えたほうがいい。地方はテレビの力が都会に比べて強いですから、試合だけではなくて、各地域のクラブや選手の取り組みも含めてメディアに取り合げてもらえるようにする必要がある。

 もう一度、地域のメディアの方々も含めて各クラブを成長させる、これはメディアの側からみてプラスになるはずです。各地域でその取り組みを進められるような仕組みをできないかと思っていて。行政もメディアも地域のパートナー企業も含め、サッカーが地域の中心になる可能性は結構あると思います。

 すでに地域の中心にサッカースタジアムを含めた複合施設ができて、その地域のシンボルになる、といった事例も出てきました。サッカーを中心に据えると、その周囲には多様な方々が集まってくるものだから、その地域の“色”が出やすいわけです。

 50年、100年後、今回のコロナ禍のようなことが起きた時、みんなでどういう方向に進むのか世の中が迷った時に、サッカークラブがイニシアチブを取るみたいなことが日本で起こるといいなと思っています。

『水曜どうでしょう』の“ミスター”こと鈴井貴之氏 ©財界さっぽろ

「うれしい」「悔しい」がリアルの醍醐味

 ――野々村さんはコンサ社長時代から“仲間づくり”の必要性を強調しています。

 野々村 どうサッカーを広め、クラブの知名度を広めるかということで、ローカルでメディアを巻き込む必要性があると思いますが、それをやっていくと、メディアの中にいる、ディレクターや制作の人に、コンサが好きな人がどんどん増えていくと思うんです。そういう人を広い意味でサッカーの“仲間”として、どれだけ全国に増やしていくか。これは将来にも絶対つながっていくと思います。

 鈴井 すごいミニマムな話ですが、僕は普段赤平市に住んでいますが、コンサにかかわることになったので、正式なものではないけど「赤平コンサドーレ会」をつくろう、という話があって。メンバーは数人ですが、月に1度くらい集まってレプリカユニフォームを買って、着ながら試合を見てみんなでお酒を飲むという。そうすると「役所のあの人がコンサの熱烈なファンなんだって」みたいな話が出てくる。じゃあ次はその人も呼ぼうよ、というネットワークができていきますよね。

 これは小さなまちの話ですが、今までは「誰がコンサが好きなのか」なんて話題にも上ってなかったけど、きっかけ1つでそれが波紋のように広がっていく。これを地道にやっていったら最終的には勝ちだなと思いますし、50年後、100年後の姿がそれなのかなと思うんです。

 野々村 本当にそう思いますね。

 鈴井 何かを始めるのって、面倒なことは面倒なんです。誰かが重い腰を上げないことには始まらない。でもわれわれオフィスキューは30年前、北海道に芸能プロダクションをつくったところで何ができるんだといろいろな人から言われました。

 でもそこから応援してくれる仲間を1人、2人と増やしていって、30年経ったのが今日の姿。これは実際やったらそれだけ成果が出てくることだと思います。今はSNSとかで手軽に情報発信ができますし、仲間を増やすためには必要だと思いますが、それだけではないですよね。

 赤平コンサドーレ会なら「次の試合はこないの?」ってメンバーに対面で言えるわけです。すると「しょうがないな、じゃあ行くよ」と腰を上げる。そういうところから絆が太く強くなっていく。弱い線をたくさんつくるより、太い絆をいっぱいつくっていく。これが将来も生き残っていく道だと思っています。

 野々村 試合もそうで、実際に来てくれたお客さんとともに、どんなものがつくれるかというのがたぶん一番大事。スタジアムに来てくれればある意味顔が見えるから、そういう仲間をどれだけつくれるか。スポーツはリアルですから、時々嫌なことや悔しいことがあるけど、うれしいこともある。でもそれが一番いいところのはず。リアルからは離れ過ぎてはいけないんだと思っていて。

 鈴井 映画とか芝居とか、われわれが普段やっていることは「つくりもの」なんです。楽しいとか悲しいいう表現をしても、それは演技であって本当に悲しいわけではない。

 野々村 (笑)

 鈴井 でもスポーツはリアルだから、リアルに一喜一憂する。その時のもの、そこのリアルさをひとりでも多くの方に感じてもらえるか。それが次につながっていくのかなと思います。

 野々村 あまり悲しい展開ばかりだと付き合うのも大変になりますけどね。

 鈴井 (笑)

 野々村 でも何年かに一度はあるはずです。そこはクラブが目標を設定して、到達するために責任を持って取り組むことが必要。目標にたどり着いた時、クラブだけでなく周囲の人、地域の人、仲間になった人たちみんなが達成感を得られるはずですから。

Jリーグチェアマン・野々村芳和氏 ©財界さっぽろ

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 月刊「財界さっぽろ」2022年10月号「30周年特集・その先のオフィスキュー」では、鈴井氏がコンサドーレ取締役として取り組む「スター選手」育成、野々村氏がサッカーの試合を「作品」と語る意味などについて大いに語っている。

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