【特別掲載】インターハイ全道王者候補たちの「幻の夏」(前編)
新型コロナウイルスはインターハイすら中止に追い込んだ。全道優勝候補と期待された部活の部員たち、そして指導者たちも落胆を隠せない。だが、インターハイに向けた努力は必ず報われるときがくる。月刊財界さっぽろ2020年8月号では各競技優勝候補の「幻の夏」を特集した。その中からいくつかのエピソードを抜粋し紹介する。
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新体操女子団体の優勝候補筆頭は北星学園女子高校。音楽のストーリー性と芸術性を表現する演技が特色で、今年はインターハイ全国上位を狙えるチームに仕上がっていたという。
顧問の三木朱美氏は「個性豊かな選手たちをリーダーがしっかりとまとめてくれていました。団体メンバーは5人とも意識も能力も高く、全国で勝負させてあげたかったです。部活で得た経験を、これから社会に出たときの支えにしてほしいと願っています」と生徒をねぎらう。
「彼らにとってインターハイは人生の節目。中止が決まったときにかける言葉は見つかりませんでした。いまは秋に予定されている北海道選手権を見据えて、できることからやっていこうと声をかけています」
そう話すのは、名門・恵庭南高校新体操部顧問の工藤直人氏だ。人の心を動かす演技を追求している同部男子団体は3番手、4番手の選手が春にかけて急成長。全国3位以上に入れる手応えを感じていたという。
女子ソフトテニス団体の優勝候補には昨年の国体でベスト8に入った札幌龍谷高校がある。顧問の水間俊祐氏は「やってきたことは無駄ではない。この先もソフトテニスを続けてほしい」と声をかけたが、それ以上何を言っていいのかわからなかったという。
逆にソフトテニス部の一人の生徒が発したメッセージに水間氏は救われた。
「インターハイ中止を受けて書いてくれた文章には、これまでの思い出やコロナ流行から学んだこと、先生、親、友だち、大会運営者への感謝の気持ちなどがつづられていました。生徒自身の言葉には説得力がある。私もまた頑張ろうと思うことができました。書いた生徒の許可を得てSNSに投稿したところ、かなり反響がありました」(水間氏)
普段の練習で培ってきた生徒たちの自主性は、こうした形でも発揮された。
卓球女子学校対抗の全道王者・札幌大谷高校の3年生は最初から全国レベルのエリートではなかった。同校卓球部監督の佐藤裕氏は「全道でも2番手か3番手の選手でした。まさしく努力によって強くなってきたのが、いまの3年生です。昨年のインターハイでは全国的な強豪である明徳義塾高校とベスト16であたり、惜しいところまで戦えました。もう一度、一体感のあるこのチームで戦ってみたかったです」と話す。
インターハイ中止について、生徒たちにかける言葉はなかったという。これがこれからの人生につながるとも思えない。自分が高校生だったらやりきれない。そんな思いを巡らせつつ、佐藤氏は「もしインターハイがあったら、ライバルの駒大苫小牧高校には勝てた?」と質問を投げた。生徒たちは「勝てます」と即答。
「それが聞けて、本当にうれしかったです」(佐藤氏)
昨年のインターハイ弓道男子個人では、網走南ケ丘高校の東郷博人選手が日本一になった。東郷選手は「今度は団体でも」という強い気持ちのもと、休校期間中もビニールハウスで弓道場をつくり、1人で練習を重ねていた。
だが、大会は軒並み中止に。ゴールデンウィーク前、同部顧問の赤平紘文氏は3年生を集め「一生懸命になることが大切だった」と伝えた後、生徒の話にじっくりと耳を傾けた。思い出話は2、3時間続いたという。
創部わずか4年で強豪校になった札幌東商業高校弓道部顧問の水嶋貴広氏は「学校に弓道場がないハンデの中、逆境に動じない心の育成に力を入れてきました」と語る。大会はなくなったが、「勝つこと以上に卒業後も弓道を続けてくれたらもっとうれしい」と生徒たちに声をかけた。
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