【さっぽろ〈マチナカ〉グラフィティー】第06回・オヨヨ通りからOYOYOへ(上)

 月刊財界さっぽろ2020年12月号より、新連載「さっぽろ〈マチナカ〉グラフィティー」が始まりました。

 筆者は札幌市の出版社「亜璃西社」社長でエッセイストの和田由美さん(写真)です。和田さんはこれまで「和田由美の札幌この味が好きッ!」といったグルメガイドブックや「さっぽろ狸小路グラフィティー」「ほっかいどう映画館グラフィティー」といった、新聞・雑誌等のエッセイをまとめた書籍を多数刊行されています。

 今回の連載では、札幌市内の「通り(ストリート)」や「区画」「商店街」「エリア」などの「マチナカ」(賑わいのある場所)を、毎月1カ所ピックアップ。その場所について、名前の由来や繁華街となっていく上での経緯、さらに現在に至るまでの変遷といった歴史と記憶を綴ります。

 今回は第6回「オヨヨ通りからOYOYOへ(上)」です。

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オヨヨ通りにあった東映仲町 ©財界さっぽろ

 先日、札幌の都市計画に携わる人たちから、「オヨヨ通り」の誕生秘話について、話を訊きたいという依頼があった。もう半世紀も前の話だけれど、命名者であることは確かなので、若い人たちの前で久しぶりに昔語りをしてしまった。

 オヨヨ通りとは、南1条の電車通りと南2条通りの間(西4丁目~主に7丁目)にある仲通りのこと。当時の私は、タウン情報誌を経て編集工房「プロジェクトハウス亜璃西」を設立したばかり。大阪の出版社に頼まれた『札幌青春街図』(1876年版)の編集に取り組み、冒頭の街角ルポでオヨヨ通りを題材に選んだ。

 というのも、通勤路だったここを歩くうち、通り沿いに個性的な喫茶店やかつて色街だった妖しい匂いを放つ東映仲町などがあり、すっかり気に入ってしまったからだ。そこで名無しだったこの通りに名前をつけるべく編集会議を開き、さまざまなアイデアを出し合った。そのひとつがスタッフの提案した「オヨヨ」で、軽妙な響きがこの仲通りにぴったりだったので即座に決めた。

 もとから私は、作家・小林信彦さんの大ファンで、初期の『笑殺の美学』をはじめ、「オヨヨ」シリーズや名著『日本の喜劇人』、直木賞候補となった『唐獅子株式会社』など殆どの作品を読破していた。当時、桂三枝がギャグに「オヨヨ」を使ったため、小林さんと揉めていたが、それでもこの名前を使いたかったのだ。

 命名したのは良いけれど、どうやってPRすれば良いものかと考え、ひとまず活字にして世の中に広めようと、『札幌青春街図』にこう書いた。「どこの誰が名づけたか知らないけれど、いつの日からか若者たちの間で〝オヨヨ通り〟と呼ばれている通りを君は知っているかい?それは南1条の電車通りと南2条通りにはさまれた仲通りのことなのでアール」。先に活字にしておけば、きっと流布するはずと考えて仕掛けたもので、まさしく確信犯だった。

 というのも、そもそも碁盤の目のように区画整理された札幌の街は、横丁や袋小路が少なく、どこを歩いても陰の部分が少ないことが面白くなかった。

 とりわけ中心部はオリンピック以来、すべてが明るい表通り一色になり、街としての風情や奥行きが失われつつあった。

 その点、仲小路に小さな店が密集した猥雑な東映仲町を擁するオヨヨ通りは、とてもユニークで発見が多く、新しい若者文化の拠点に成り得ると思ったからだ。

 とはいえ、まさか半世紀後までオヨヨ通りの名前が生き残るとは予想もしなかった。ましてやビンボーな編集工房が必死で作った『札幌青春街図』が、ベストセラーとなって売り切れ店が続出したことも晴天のヘキレキ。その後も、あの頃若かった人たちに、〝青春時代のバイブル〟として大切に保管され、古本屋にも容易に出ない一冊になるとは思いもよらなかったのである。

 それから30年余りを経た2008年春のこと。NPO法人「OYOYOまち×アートセンターさっぽろ」の主宰者が、「オヨヨ」の名前を使わせて欲しいと仁義を切りに訪ねてくれた。それも、私の大好きな雑居ビル第2三谷ビル6階にオープンするという。後日、オフィスを訪れてみると、ドアにアルファベットで「OYOYO」と横書きされている。右から読んでも左から読んでもOYOYOと読めることに気づかされ、心底ビックリさせられたものだ。

 1976年に誕生した「オヨヨ」が32年後、「OYOYO」の表記になると、時代の最先端を走る表現者たちにふさわしい名前に思えてくるから不思議だ。その後も、コミュニティスペースとして幅広く利用された「OYOYOまち」だが、ビル取り壊しのため、2017年に幕を閉じている。

 次に驚かされたのは、同じ年の8月にカフェ「OYOYOホットサンド」(南1西4)が誕生したこと。店舗担当だった加島志織さんによると、旅行会社が空きスペースを利用して始めたビジネスであるという。一番人気は「照り焼きチキンサンド」で、コーヒーなどドリンク類はセット200円(単品350円)と格安だった。ウナギ昇りの人気だったが、コロナ禍の昨年6月に閉店している。

 こうして振り返ってみると、あたかもオヨヨ通りが生み出した独自の文化が消滅しつつあるように思われるかもしれない。しかし、実は場所を変えただけで、オヨヨ通りにルーツを持つ〝マチ文化〟は、各方面で大きく花咲いている。次回は、オヨヨ通りに纏わる魅力的な人や店をまとめて紹介したい。