【今月号特選記事】今秋にも解散総選挙?投票前に“政治とカネ”の仕組みをおさらい

「総選挙のたびに借金がかさみ、泥棒してでもおカネが欲しかった」――中選挙区時代、解散のたびに激しい選挙戦を繰り広げた末、共和汚職事件で逮捕された阿部文男元衆院議員は、こう供述したという。古の選挙戦では「五当四落」すなわち、1度の選挙活動で5億円使えば当選、4億円しか使わなければ落選、などと言われたこともあった。

 時は過ぎ、今年のはじめには秋元司衆院議員が逮捕されたIR汚職事件が明るみに。7月に逮捕、起訴された河井克行前法務大臣とその妻・案里参院議員による買収事件は「昭和の手口だ」と政界関係者が呆れるほどに直接的な“犯行”だった。かくも政治とカネは切っても切れない関係なのだ。

 さて、現職衆院議員の任期は来年10月21日までとなっている。つまり、来年秋までに必ず総選挙がある。新型コロナウイルス感染症の“第2波”襲来まっただ中だが、来年度の予算審議や外遊日程などを考慮すると、任期満了までに解散のカードを切るタイミングはどんどん少なくなっている。

 そうしたことから、与党・安倍政権は今秋にも解散、総選挙を打つのでは、という観測が永田町から聞こえてきている。大義名分はさておき、立憲民主党と国民民主党との合流協議が進展する中、体制が固まる前に戦いたい――もっとも都合のいいタイミングを選べるのが与党の特権だ。

 そこで本誌月刊財界さっぽろ編集部は、8月14日発売の2020年9月号で「衆院解散近し 北海道“政治とカネ”」と題した特集を掲載した。以下、その一部を抜粋する。

◇政治家がもらえるカネの種類

 下図は、政治家・政治団体が寄付を受ける際、極力賄賂や利益誘導とならないよう規正する「政治資金規正法」における献金の額や制限についてまとめた。

©財界さっぽろ

 同法は政治とカネの問題がクローズアップされた1994年、政治改革の一環として改正。企業が議員個人や後援会などに献金することを禁じた。

 政治家が政治活動をする際、自身の活動を支援したり、活動の際に必要な資金の管理をしたりするのが「政治団体」だ。

 政治家のカネについて制限する、政治資金規正法上の政治団体には、自民党や立憲民主党などの、もっともポピュラーな「政党」と、政党が資金集めのために指定する政治団体の「政治資金団体」、国会議員同士で設立する「政策研究団体」がある。

 これ以外の政治団体はすべて「その他の政治団体」という区分になる。政治家個人が設立する「後援会」は、すべてこの中に含まれる。

 政治資金規正法上、政治団体の得る収入は「党費または会費」「寄附」「その他の収入」の3つに区分される。

 党費や会費は、党員や後援会に入会している者が支払う年会費。
 寄附はいわゆる献金のこと。
 その他の収入はそれ以外、たとえば政治資金パーティーのチケット収入や預金利息などがある。

 同法ではこのうち献金の額について、政党・政治資金団体と、その他の政治団体とで、授受の制限額など規制の厳しさが全く違う。
 献金には、個人がおこなう個人献金と、企業や労働組合などの団体がおこなう献金がある。
 政党・政治資金団体に対して、1人の個人が年間に献金できる額の合計は2000万円以内。
 これがその他の政治団体については合計1000万円に制限される。1つの政治団体にできる献金額も150万円までに制限されている。

 企業や労働組合などの団体は、政党・政治資金団体にのみ、年間750万円から団体の規模によって最大1億円まで献金可能。だがその他の政治団体については一切禁止となっている。

 また、政治団体同士で献金をやりとりすることもできる。
 政党・政治資金団体は、どの政治団体や政治家個人に対しても無制限で献金が可能。
 その他の政治団体同士では、年間合計の制限はないが、1つの政治団体につき5000万円までとなっている。
 たとえば商工会議所が設立する「商工政治連盟」や、JAグループが設立する「農協政治連盟」のような政治団体は、企業や団体として献金できない代わりに設立されている側面がある。

 さて、政治家は、自分自身が代表者として設立した「その他の政治団体」について、1人につき1団体のみ、自分の政治資金を扱う「資金管理団体」を指定できる。
 この資金管理団体を指定するメリットは3つある。
 前出のように、政治団体は年間1000万円までしか個人献金を受け取れない。
 だが、資金管理団体であれば、その代表者である政治家自身が、自分の金を資金管理団体に献金する場合に限り、1団体ごとに150万円までの上限がなくなる。

 さらに代表者個人が政党から受けた献金を資金管理団体に献金する場合は、総額1000万円の上限もなくなる。これを特定寄附という。
 もう1つは、政治家自身は任期満了の90日前から、その他の政治団体に献金することができなくなる。だが自分が代表者を務める資金管理団体には献金できる。
 これにより、選挙前に政治活動をする際の資金が足りなくなった場合でも追加できる。

 政治資金規正法成立前から指摘されてきたが、今日まで改正されていない最大の“穴”が、前出の通り政党本部や各都道府県内の支部による寄付はほぼ無制限でできることだ。

 7月に買収の疑いで逮捕された河井克行前法務大臣は、昨年の参院選で妻の案里氏の当選のためにカネを地元選挙区内の県議などにばらまいたとされている。だが、この際自身が務める自民広島県第3選挙区支部長の立場から、地元議員に票のとりまとめを頼むため、100万円を渡したとしても、同支部から議員の後援会などに寄付し、もらった議員も領収書を発行すれば、何の咎めもない。まさに同法が“天下のザル法”と呼ばれる所以だ。

◇現職衆院議員の金庫の中身は……

 国会議員の主な収入には、民間企業の給与にあたる「歳費」とボーナスにあたる「期末手当」がある。

 歳費は月額は129万4000円で、新型コロナウイルスの感染拡大を受け、現在は2割削減されている。
 ボーナスにあたる「期末手当」は夏と冬で合計520万円。今夏、期末手当が満額支給され、世論から批判を浴びた。

 次に、第2の歳費と呼ばれるのが「文書通信費」。1人当たり月額100万円支給される。領収書の提出が不要で、何に使われているのが不明瞭だ。

 これだけもらっても、多くの議員は歳費だけでは足りない、という。よって、政治資金を集める。“浄財”と表現する議員も少なくない。受け皿として、前出の「資金管理団体」や代表を務める「政党支部」、「後援会」といった政治団体がある。

参考までに、道3区選出衆院議員・荒井聰氏の資金管理団体の収支報告書を掲載した。

©財界さっぽろ

 支出を見ると、一番大きな負担が私設秘書や事務所スタッフに支払う人件費。政治活動を熱心にやればやるほど、移動のための交通費、会合などの会場費、交際費がかさんでいく。

 衆議院は“常在戦場”と呼ばれる。突如訪れる戦いに備えて、選挙資金を積み立てていかなくてはならない。

「私腹を肥やす余裕のある議員は、ほんの一握りだ」と現職国会議員は語っている。

8月14日発売の月刊財界さっぽろ9月号では、道内選出衆院議員全20人の資金管理団体について収支報告書の数字を紹介、解説しているほか、道内12小選挙区の最新情勢を詳報している。

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