【特別対談】道内最大手・道路維持管理グループ HRMホールディングスが つなぐCEOのバトン
11月30日、HRMホールディングスは株主総会にて、大野末治代表取締役会長兼CEOの代表権を外し、CEOを大野晃社長に移譲することを決定した。大野会長はグループの実質的創業者。休眠状態だった北海道ロードメンテナンスを1人で再興し、グループ12社、従業員300人を超える一大道路維持管理グループを築き上げた。
10年以上前から承継に向け準備
――現在の心境は。
大野末治 こうして任せられる後継者がいる充足感、達成感がある。後継者難で事業承継が進まない企業が多い中、スムーズに承継できて恵まれていると思う。会社は個人のものではなく、社員全員の財産です。社員にとって適切な経営判断ができる社長だと思っています。
――今回の人事の狙いは。
大野末治 これまで50年間、紆余曲折ありながら、都度、経営判断をして今日までやってきました。これから先の時代はこれまで以上に膨大な情報をコントロールしながら、スピード感のある経営判断を行うことが求められます。私の体調も万全ではないため、毎日出社するのは厳しくなっていました。これまでのようにタイムリーに情報を分析して、社長たちと協議をして、経営判断をすることができなくなっていました。このままでは迷惑を掛けるのではないかという危機感もあったのです。それならば私がまだ耳を貸し、アドバイスできる今の時期に世代交代を進めるのがグループのためになると判断しました。
――事業承継はいつごろから考えていたのですか。
大野末治 10年以上前から準備をしていました。5年前にグループをホールディングス化し、社長には経営を勉強してもらいました。
社長業の実績は十分 HD設立時から覚悟
――2人代表から1人代表になり、CEOも任せられます。今の心境は。
大野晃 幼少期から現在の筆頭事業会社である北海道ロードメンテナンスという会社を間近で見てきました。50年の歴史があるグループの旗振り役になるわけですから、少なからずプレッシャーを感じています。会社というものは少しずつしか伸ばすことができませんが、ダメになる時は一瞬です。経営判断の局面で的確なジャッジができなければダメになることもある。それだけの責任と覚悟を持ってグループを引っ張っていきます。
大野末治 社長は企業規模の大小はあれ、経営トップとしての実績も十分にある。グループ会社数社の経営を行い、ホールディングス設立後は2代表で経営をしてきましたし、私の手法も見てきました。
――経営者としての経験は十分ですね。
大野晃 グループ企業の北海道ロード運輸を設立したのが1997年。このほか、2つのグループ会社を立ちあげました。当時は若かったこともあり、社長は譲りましたが、役員として経営に参画してきました。社長業を始めてからも15年以上たちます。
――すでに金融関係との折衝などの実務は社長がやっていますね。
大野晃 会長に鍛えられました。グループ企業の社長だった時は、金融機関と折衝する前に会長の決裁が必要でした。金融機関に通る事業計画書でも、会長に通らないと言うことが多々ありました。
――会長のほうが厳しい。
大野末治 ホールディングス設立前は各グループ会社の社長が金融機関と個別に折衝していました。幸い金融機関からも信頼していただいておりますので、私から見れば少し甘いなという計画書でも通ってしまう。場合によってはこちらの希望以上に融資していただくこともありました。そこに甘えて借りすぎてしまうと無駄な金利が発生します。とは言え、事業会社の社長に資産管理、財務管理まで任せるのは難しい。そこで現在はホールディングスが融資の一括管理を行っています。
――代表権を外すことに反対したとも聞きました。
大野晃 私一人で実務を行うことに不安はありませんし、ホールディングス設立時から覚悟も決めています。ただ北海道ロードメンテナンス、HRMホールディングスの大野末治という影響力は大きい。それと、まだまだ会長にはやりたい事業があると聞いています。体力的な問題は理解していますが、その部分が気がかりでした。今後も会長がやりたいという事業に関しては十分に検討を重ねたうえで実行していきたい。
――新たに3人の取締役を選出しました。若くて数字に強い人ばかりですね。
大野末治 大谷和永事業部長にはグループの資産を一括管理して運用してもらいます。久杉孝紀財務部長には心臓部である財務管理を担ってもらいます。二人とも金融機関出身です。米野孝之取締役は、筆頭事業会社である北海道ロードメンテナンスの社長です。グループのまとめ役として期待しています。すべてを社長1人でまかなうのは難しい。目が行き届かないこともある。社長も新任取締役の3名も若いですから、その感覚を生かして、それぞれの立場から社長に提言して欲しい。
時代に応じた経営 M&Aにも積極的
――会長から見た経営者・大野晃とは。
大野末治 私の姿を見てきていますので、似たタイプだと思います。もちろん全く同じというのはあり得ません。自分なりの経験則に基づいた判断を加えて、オリジナリティーを出していけばいいと思います。
――似たタイプであるのは安心感がありますね。
大野末治 そうした意味からも安心して任せられる後継者です。
――社長から見た経営者・大野末治は。
大野晃 私との一番の違いはすべてをやってきたという点です。現場から営業、経営までオールマイティー。そして全てにおいてプロフェッショナルです。今の時代はオールマイティーが求められませんし、求められても難しい。だからこそブレーンをつくっていかなければならない。肩肘張らずに虚勢を張ることなく、できないもの、やってもらいたいものはブレーンに任せます。チームで一つひとつの課題を解決し、目標を達成していく。そのための手段を選択し、決断していくのが私の仕事です。
――会長が再興させたときはたった1人でした。それが今は300人以上。環境は大きく変化しています。
大野晃 この50年で経営基盤はできあがりました。この基盤を最大限に生かして経営していくべきだと考えています。
――ホールディングスの役割も広がっていますね。
大野末治 ホールディングスの役割はグループのシンクタンクとして、グループ各社にアドバイスを送ることです。言葉だけではなく実務的なアドバイスが必要不可欠です。先日、人材確保、福利厚生のために札幌市南区に社員寮としてマンションを2棟購入しました。1社で買うには負担が大きいですが、全事業会社のためにホールディングスが設備投資をするということであれば大きな負担ではありません。各社はわずかな負担で福利厚生を充実させられます。社宅があれば地方から転職がしやすくなりますし、道外の協力会社を呼ぶ際の住宅にもできます。
――今後の展開は。
大野晃 まずは今の基盤をさらに盤石なものにします。ただし、守っているだけではいけません。前へ、前へ進んでいかなければなりません。グループ全体を盛り上げる手段としてはM&Aが一番だと思っています。良き縁があれば、新しい風を入れていきたい。また、良き企業でなければ人は集まりません。〝人財〟を集めて貯蓄していこうと考えています。
――「前へ、前へ」という思いが伝わってきます。
大野晃 経営者にゴールはありません。常に先を考えていかなければならない。これは事業会社も一緒です。危機感を持ち、ハードルを高く設定して欲しい。私がグループの監督とするならば事業会社の社長はコーチです。プレイヤーである社員をどう生かすかを考えてもらいたい。私と同じように各事業会社の社長も若い。まだまだ伸びしろがあります。