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2021年

倉内公嘉・北海道開発局長インタビュー「良質なインフラで本道の食と観光に貢献する」

倉内公嘉 北海道開発局長

「世界の北海道」――現在進行中の第8期北海道総合開発計画が掲げるテーマだ。国土交通省北海道開発局は道路や港湾、河川などの整備や維持管理を通じ、本道の発展に寄与する。災害が頻発する近年は、防災・被災対応での役割も注目されている。

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新人時代の現場での学びが貴重な経験

 2020年7月に国土交通省北海道開発局長に就任した倉内公嘉氏は1962年、芦別市生まれ。芦別高校を卒業後、室蘭工業大学に進み、同大大学院を修了後の86年に北海道開発庁に入る。開発局建設部長、国土交通省大臣官房審議官などを歴任した。

   ◇    ◇   

 ――室蘭工業大学ではどのような研究を。

 倉内 土木工学科を専攻し、消波構造物の特性について研究しました。名誉教授になられた近藤俶郎先生に指導をしていただきました。

 近藤先生からは「勉強が足りない」とよく言われていましたよ(笑)。近藤先生とは卒業後も交流があり、つい先日もこちらにお見えになって「頑張りなさい」と言葉をかけていただきました。

 ――気に留めてくれるのはありがたいですね。

 倉内 大変、うれしかったです。大学時代の同級生たちからも声をかけていただきました。うちの大学の土木クラスは当時、人数がそう多くなく50人ぐらい。ですから授業や実験、試験のための一夜漬け勉強で苦楽を共にした仲間です。今でも同級生とは年始年末や夏休み時期などの機会に、顔を合わせています。

 ――どんなキャリアを歩まれてきたのですか。若手時代は。

 倉内 北海道開発庁の採用で、振り出しは札幌開発建設部の幌加内道路建設事業所でした。当時、275号や239号の改良工事を担当していました。

 ――現場ですね。

 倉内 朝から晩まで現場に行かせてもらい、作業の段取りや建設機械をどのように効率的に導入しているかなど、つぶさに見ました。振り返ってみると、この時の現場での学びが、その後の仕事にとっても貴重な経験になりました。

 ――小樽開発建設部時代に、入札で新たな方法を導入されたと開発局OBから聞きました。

 倉内 10年ほど前、小樽開発建設部で次長を務めていた時の話だと思います。北海道大学の高野伸栄教授が提唱された住民参加型の入札の実証実験としておこないました。

 工事の入札では価格だけでなく、施工計画などの技術的な要素も加味される総合評価がおこなわれています。その施工計画の安全対策の部分について、住民のみなさんに投票をしてもらい、審査に反映する仕組みです。

 ――そんな仕組みがあるんですか。

 倉内 一般の人の間では工事の入札がどのような流れでおこなわれているのか、あまり知られていません。実態は違っても、ややもすれば役所と業者が結託しているのでは、との見方もありました。

 どうすればみなさんのご理解をいただけるのか。いっそのこと審査自体に参加をしていただくのはどうだろうか、という発想です。

 ――なるほど。

 倉内 入札に参加した各事業者のプレゼンを聞いてもらい、住民はどの事業者の提案が良かったのかを投票します。投票結果を点数化し、総合評価に加えました。

 工事には専門的な部分もありますから住民参加型入札について、さまざまなご意見をちょうだいしましたが、参加した住民への事後のアンケート結果を見ると、おおむね好評でした。

 ただ、コストや手間はかかります。例えば、参加する住民はいわば審査委員ですから、入札参加事業者との接触を防ぐための方策が必要になります。参加住民をどのように選出し、ご協力をいただくかも容易ではありません。

 ――「ほっかいどう学」の推進に取り組んでいるとも聞きましたが、「ほっかいどう学」とは。

 倉内 現在の第8期北海道総合開発計画に「ほっかいどう学」が盛り込まれています。開発監理部の次長の時に担当し、その促進に努めました。

「ほっかいどう学」については新保元康先生というキーマンがいらっしゃいます。新保先生は社会科の教諭、校長を長くされた方で、ほっかいどう学推進フォーラムというNPO法人の理事長をされています。

 その新保先生が8期の計画を策定する前段の有識者の会議で提唱をされました。背景には教育現場の事情もありました。カリキュラムが盛りだくさんで、なかなか地元である北海道の歴史や地理、文化、各産業などを総合的に学ぶ時間がとれないそうです。

 自分たちが暮らす北海道を知り、愛着を持つことはとても大切です。

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「世界の北海道」のために人材の育成

 ――北海道総合開発計画と、どのような関係性が。

 倉内 第8期の計画では「世界の北海道」を謳っています。今は新型コロナのため、インバウンドは停滞していますが、外から本道にいらした方に誇りと愛着を持って北海道を紹介する人材をいかに育てていくか。それが「世界の北海道」の達成につながっていく。

 ――新型コロナの話が出ました。開発局の仕事に影響は。

 倉内 各業界の方々に頑張っていただき、事業に遅れは生じていません。

 ただ、今回の新型コロナをきっかけに、非接触型の仕事のやり方を推進していく必要があります。いわゆる働き方改革、生産性の向上の視点からも求められていると思います。

 ――非接触型の仕事のやり方ということですが、具体的には。

 倉内 たとえば、北海道は非常に広いため、工事の監督をする事務所と実際の現場までの距離が非常に離れているケースがままあります。片道だけで車で1時間かかる場所も。

 監督員の第1の職務は現場の把握ですが、臨場のための往復だけで2時間かかってしまうと効率的ではありません。

 そこでリモート技術を活用するわけです。固定カメラだけでなく、現場代理人のヘルメットの横に小型カメラをつけてもらえば、現場の状況を事務所でリアルタイムで把握できます。また、タブレットで対象物を撮影すると、鉄筋の本数やピッチがすぐにわかる技術もあります。

 新型コロナが収束した後も、こうした技術の活用を進めていくことになるでしょう。

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地域の建設会社はなくてはならない存在

 ――今年も全国各地で大雨被害がありました。被災時における開発局の役割についてうかがいたい。

 倉内 災害自体が激甚化、広域化しています。開発局の管轄する国所管の施設の被害に即応するのはもちろんですが、道庁や各市町村の施設被害に対する対応も、我々の非常に重要な仕事です。

 胆振東部地震では厚真町の日高幌内川で大規模な土砂崩壊が起きました。日高幌内川は道の河川ですが、現在、開発局直轄工事として対応しています。

 土砂ダムができ、せき止められた水があふれると大量の土砂が下流に流れ、被害が出てしまう。観測をしながら、土砂ダムが崩壊しないように慎重に工事を進めなければなりません。

 規模が大きく、高度な技術が必要なので道庁からの依頼を受けて開発局が担当することになりました。2023年までに完了する予定です。

 ――災害発生時に真っ先に動くのが、やはり各地域の建設会社などです。

 倉内 地域の建設会社はなくてはならない存在です。災害対応は瞬発力がとても重要で人員、機械、資材をすばやく、必要な量を現場に投入しなければならない。

 地域で施工している会社があれば、現場をいったんストップさせ、急きょ被災地に向かってもらうことができます。

 そうした被災対応の意味でも安定的に仕事を受注してもらい、一定の即応力を保持していただく必要があると考えています。

 ――建設業界では技術者や技能労働者の慢性的な不足が課題になっています。

 倉内 工業高校がどんどん少なくなっています。普通科の卒業生を採用後、専門学校に行って学んでもらう企業もありますが、その受け皿となる学校が札幌工科専門学校しか道内にはありません。

 建設業を志す人をいかに増やしていくか。建設業は努力した結果が目に見える形で残る、とてもやりがいのある仕事です。

 ――8期の北海道総合開発計画がスタートしてからちょうど中間地点です。どのような評価を。

 倉内 8期の計画では北海道の食と観光に力点を置いており、現在、本省の北海道局で中間点検をおこなっているところです。新型コロナの影響で最終的な目標値を見直すかもしれませんが、食と観光が北海道の生命線であること自体は変わりありません。

 開発局では農業関連としては、かんがい事業や農地の区画整理事業などをおこなっています。

 それらの事業が進むことで、稲作分野でスマート農業や直播きが普及し始めていますが、作業の省力化ができ、余った時間や労力を高収益作物に回すことで農家は収入がアップします。収入が上がれば就業者も増えやすい。各地域と連携してそうした好循環を構築し、北海道の食の振興に力を入れていきたい。

 ――一時期、本省の北海道局がなくなるのでは、という見方がありました。改めて開発局の役割を。

 倉内 もっとも重要な役割は維持管理も含め、良質なインフラをいかに構築するか、だと考えています。長期にわたって多くの人がインフラを利用し、北海道の発展につなげていく。ひいては、強みを持つ食や観光などで北海道は日本全体に貢献をしていくわけです。


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