【胆振東部地震特集その2】想定死者数8000人超 札幌直下地震を引き起こす“月寒断層”

 胆振東部地震に限らず、地震はいつどこで起きるかわからない。札幌市にも震源となる活断層があると推測されており、厳冬期に発生した場合、8000人を超える死者が出ると想定されている。

北海道の活断層と予測される地震発生確率※1 ©財界さっぽろ

札幌で想定される震度7の地震

 胆振東部地震の震源付近には活断層「石狩低地東縁断層帯」がある。この断層帯は主部と南部に区分され、長さ約66キロの主部は美唄市、岩見沢市、空知管内栗山町、長沼町、由仁町、千歳市、胆振管内安平町に至る。長さ約54キロの南部は千歳市から安平町、苫小牧市、厚真町、日高管内日高町の沖合に伸びる。

 国の地震調査委員会は9月6日の臨時会合で、今回の地震はこの断層帯ではなく、より地下深くにある別の断層が動いたとの見方を示していた。

 しかし、その後の余震活動のデータなどを分析した結果、当初の想定よりも浅い場所までずれていたことがわかり「石狩低地東縁断層帯の深部が動いた可能性を否定できない」と、当初の見解を修正した。

 地震調査委員会では同断層帯によって引き起こされる地震の最大マグニチュードを7.7と想定していた。今後30年の地震発生確率は0.2%と予測。国内の主な活断層の中では「やや高いグループ」に属する。

 過去に発生した地震についてのデータが乏しいため、予測されている発生確率の信頼性は高いとは言えない。特に北海道は開拓以前の資料が少ないため、調査には限界がある。予測で示される数字はかなり強引に算出されたものだ。

 弟子屈付近では過去、2016年の熊本地震のように断層のズレが地表でも見られる地震が発生しているという。これははっきりと確認されている断層帯以外の小規模な断層で起きたとされている。

 こうしたことから、確認されていない活断層も存在すると考えるのが妥当だ。

 札幌市は将来、震源となるであろう活断層を推定し、実際に発生した場合の被害の全体像を「地震被害想定」として発表している。

 そこで震源と予想されているのが「西札幌背斜に関連する断層(西札幌断層)」「月寒背斜に関連する断層(月寒断層)」「野幌丘陵断層帯」の3つ。いずれも地表ではっきりと確認されていないため「伏在活断層」と呼ばれている。

 このうち最大級の被害をもたらすと考えられているのが月寒断層だ。

札幌の伏在活断層※2 ©財界さっぽろ

 上の図を見てほしい。月寒断層は札幌市清田区の白旗山付近から豊平区、厚別区、白石区、東区、北区、北広島市、江別市、空知管内南幌町、新篠津村を経て、当別町に至っている。想定される地震の最大規模はマグニチュード7.3、震度7と巨大だ。

 札幌市内はおおむね震度5弱以上になり、市街地の大部分で6弱、6強となる。さらに東区、厚別区などの市内東側の一部は、震度7の激しい揺れに襲われるという。

2010年には清田区で直下型地震

 想定されている月寒断層の地震被害も甚大だ。地震の影響で起きる液状化や崖崩れにより道路が多く寸断され、交通障害による帰宅困難者は夏季で4万4066人、冬季で8万3142人も出ると予想されている。

 建物は夏季だと3万218棟が全壊し、7万1073棟が半壊。冬季は3万3611棟が全壊、7万8850棟が半壊すると見られている。さらに建物倒壊により、夏は255棟、暖房器具を使う冬は1405棟が焼失するという。

 死亡者数は夏の場合、最大で1789人。冬は2637人で、そのうち587人は地震発生時から24時間以内の凍死者数だ。厳冬期は死者が8234人に増える。それは地震発生2時間後の凍死者が6184人と想定されるためだ。

 電話、LPガス、都市ガス、電力、上下水道のライフラインは軒並みストップ。地震発生から3カ月時点で、夏672万6000トン、冬704万7000トンのがれきが発生し、毎月1万8775トンの粗大ゴミが出る。

 冬の場合、直下型地震が札幌に直接与える経済被害額は6兆2673億円、間接的な損失額は4455億円。道内全域では7748億円が関節的に損失する。

 西札幌断層や野幌丘陵断層帯が震源となった地震でも、月寒断層に近い規模の被害が発生すると予想されている。

 内陸直下型の地震では、下から突きあげるような揺れを感じる。震源が浅いことも多く、緊急地震速報よりも早く、なおかつ何の前触れもなく襲ってくる。札幌直下型地震がいつ起きるかは、活断層自体が推定段階のため予測はできていない。

 10年には清田区真栄付近を震源とする直下型地震が発生した。このとき、地盤が弱い北広島大曲地区や震源のすぐそばでは、震度4~5弱に達したと推測されている。

 大曲中学校では天井の吸音材が剥がれ、清田区のゴルフ場では大きな地滑りが発生した。実際に札幌でも直下型地震は起きている。

巨大地震を引き起こす可能性がある千島海溝と過去の震源域※3 ©財界さっぽろ

最大40%の確率で起きる超巨大地震

 北海道は今回の胆振東部地震のような内陸直下型だけではなく、東日本大震災のようなプレート間巨大地震にも警戒が必要だ。

 根室沖では約65年間隔で発生しており、直近では1973年に「根室半島沖地震」が起きている。このことから、地震調査委員会では2017年1月1日から30年以内にマグニチュード7.8~8.5程度の地震が70%程度の確率で発生すると予測されている。

 十勝沖では03年にマグニチュード8の「十勝沖地震」が起きた。今後30年の発生確率は7%で、予想される地震規模はマグニチュード8~8.6となっている。

 さらに、千島海溝沿いの十勝沖、根室沖、さらに色丹島沖、択捉島沖の地震が連動したマグニチュード8.8程度以上の超巨大地震も30年以内に7~40%の確率で発生すると予想されている。

 道はさらなる最悪のパターンを想定し、東日本大震災級のマグニチュード9の地震が北海道太平洋沖で発生した際の津波予測図を発表している。

 それによると、釧路管内浜中町琵琶瀬には34・6メートルの高さの津波が押し寄せるという。同町渡散布、釧路町昆布森でも30㍍を超える高さになると見込まれ、根室市から日高管内様似町までの太平洋沿岸東部を20メートル級の津波が襲う。

 釧路市では海岸から数十キロ先の内陸地域まで浸水すると予想され、震源から離れている函館市も市中心部がすべて浸水すると考えられている。

 十勝・根室沖の海域では400~500年間隔で連動した巨大地震が起きてきたことがわかっている。最新の発生時期と推測されているのは17世紀。03年に十勝沖地震が起きていることから、近い将来には起きないだろうという声もある。

 その一方でプレートのゆがみは解消しきっておらず、危機はすぐそこまで迫っているという見方もある。

 下の表のように、北海道にもこれまで何度も地震による被害を受けてきた歴史がある。普段から高い防災意識を保つことが大切だ。

 なお、本記事掲載後の2020年4月21日、内閣府の有識者検討会は道東沖の千島海溝沿いと日高沖から三陸沖にかけての日本海溝沿いを震源としたマグニチュード9クラスの二つの巨大地震による津波の想定を公表した。この想定を踏まえ、今年度中にも具体的な被害の推計をおこない、対策がまとめられるという(参考リンク)。

※1 参考:産業技術総合研究所地震調査研究推進本部

※2 札幌市の推定

※3 参考:地震調査研究推進本部

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