経営破綻・夕張リゾートを鈴木直道前市長から「買収・転売」した中国・元大G社長が語った“野望”

「北海道も全道にわたり感染者数の増加が継続し、終息の見込が全く立たない状況が続いていることから、事業継続は困難となり、やむを得ず廃業し、破産申立てを行う事を決断致しました」

 12月24日、「マウントレースイスキー場」など、夕張市内で観光関連施設を運営する「夕張リゾート」(夕張市)が施設の営業を停止し、廃業、破産申し立てをおこなうと発表した。

ホテルマウントレースイ ©財界さっぽろ

 同社が運営していた施設はスキー場のほか「ホテルマウントレースイ」「ホテルシューパロ」「合宿の宿ひまわり」の4施設。

 スキー場などこれらの施設は、もともと地元資本による建設、開業を経て民間の運営、第三セクター、市の所有施設といった変遷を経て、夕張市が財政破綻後の2007年から17年までは「加森観光」(札幌市中央区)が運営を受託。夕張リゾートはその運営会社として同社が設立した。

 17年に加森観光が運営から撤退した後、市は施設を中国系資本の不動産会社「元大リアルエステート」(東京都)へ2億4000万円で売却。夕張リゾート社も取得した。

 さらに、2年後の19年3月末、元大は香港系資本のファンドに施設と夕張リゾート社を売却。同ファンドは夕張リゾート社を通じ、昨年来から施設の運営を続けていたが、20年に入り、新型コロナウイルス感染症の蔓延で営業できない時期が続き、今回の廃業に至ったものだ。

 ライ・ユン・ナン夕張リゾート社長名で発表されたコメントでは、冒頭の通り廃業を伝えるとともに「債権者の皆様におかれましては、債権者の皆様におかれましては、お取引、ご支援をいただいていたにも関わらず、多大なご迷惑をお掛けすることとなりお詫び申し上げます」と陳謝した。

 一方で、元大がファンドへ施設等を売却した際の価格が約15億円だったことから、批判が集まったのが当時夕張市長で現北海道知事の鈴木直道氏。元大が短期間に10億円の利益を得たことで、19年春の知事選では「売却時の条項に転売禁止などを盛り込まなかった」「外資に儲けさせただけ」などと批判する声があがっていた。

夕張市長時代の鈴木直道氏 ©財界さっぽろ

 月刊財界さっぽろ2017年6月号では、夕張リゾート社と施設を買収、代表に就任した呉之平(ご・しへい)氏にインタビューを実施。呉氏は施設内に飲食店を開業するといった運営方針や、地域と密着した経営戦略を語っていた。以下にその全文を掲載する。なお、記事の内容は発行当時のまま。

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呉之平氏 ©財界さっぽろ

世界中で人気の火鍋専門店を夕張に出店

 ――ホテルマウントレースイ、ゆうばりホテルシューパロ、合宿の宿ひまわり、夕張リゾートマウントレースイスキー場の4施設を買収しましたが、夕張のどこに魅力を感じましたか。

  正直、買収する前は夕張メロンは知っていても、どこにあるかはわかりませんでした。調べると新千歳空港から近い。札幌からの距離も60キロです。この位置条件は大きな魅力です。

 ――夕張は人口減少が急激に進んでおり、町を取り巻く現状は厳しいものがあります。ご自身はどのような認識をお持ちですか。

  かつて10万人以上いた住民が現在は1万人にも満たないほど減り、市の財政は依然として厳しいことは理解しています。住民のみなさまは昔の幸せを忘れてしまっているのではないでしょうか。いまは新しい“血”を入れなければならない時期だと思います。

 ――これからの戦略を教えてください。

  買収後、すぐに老朽化した施設や機器の改修、予約システムの更新とワイファイ(Wi‐Fi)を整備しました。お客さまには見えない部分ですが、そこはしっかりと対応させていただきました。

 これまで外国人観光客は台湾や香港、東南アジアの人たちが中心でしたが、今後は中国本土からの観光客を呼び込みたいと思っています。

 4月後半には上海でおこなわれた旅行業界の展示会にオール夕張として参加しました。最大のミッションはまず、夕張を知ってもらうことです。京都や茨城などは県としてブースを出展していましたが、夕張だけでそれよりも大きいスペースを使わせていただきました。

 鈴木直道夕張市長のメッセージや夕張メロンの宣伝もおこない、中国大手の旅行会社との契約も進めることもできました。そうしたプロモーションは積極的にかけていきます。

 また、スキーシーズンに中国語が話せるインストラクターを配置する予定です。もともとファミリーが楽しめて、スキーが上達しやすいフラットなゲレンデというのが、夕張のスキー場の売りです。中国のファミリーにも、日本人と同じような形で、スキー場を利用していただけるように体制を整えたいと思っています。

 さらに、スキーをしないお客さまも楽しんでもらえるよう、スノーモービルやバナナボートなどがある“スノーパーク”的な発想で、整備を進めていきたいと考えています。

 いままでシーズンオフとされてきた時期にも来ていただけるような仕掛けを打っていきたいです。例えば、夏にスキー場のリフトに乗り、星空を鑑賞するとか。利益は少なくとも、もう一度来ていただくためのサービスを生み出していきます。

 それから“店づくり”にも着手したいと考えています。 現在は泊まりに来ても、夜にお酒を飲む場所、遊ぶ場所はありません。みんなコンビニに行って、缶ビールを買っている。この点は私にとってさみしさを感じています。

 市民のみなさまの中にも、夜一杯飲みたいと思っている人はいます。カラオケの一曲ぐらい歌いたい人もいるでしょう。そういう人たちは、栗山町や岩見沢市まで行っています。そういった人たちも気軽にご利用頂けるような店を、ホテルの中につくりたいと考えています。

 ――具体的には。

  すでに火鍋専門店を年内に開くことを決めています。 中国を中心に、アメリカ、カナダ、ドバイ、タイなど、世界中に約550店舗展開しているブランドです。また、以前から営業しているレストランでも、上海からシェフを呼び、中華料理を強化します。

 こうした料理はメディアにも宣伝していただけるように、働きかけていきます。繰り返しにはなりますが、札幌から夕張は1時間ちょっとの距離です。日帰りでもお泊まりでも気軽にお越しいただきたいので、値ごろ感のある価格設定にしています。

 これから大規模な投資をおこなう計画も立てています。ただ、一晩で180度変わるということはあり得ません。できることから、長期的な目線でよりよい施設にしていきたいです。

 ――どのような体制で事業を展開していきますか。

  夕張生まれ、夕張育ちで、松下興産時代からホテルマウントレースイで働いている総支配人に今回、現地法人の社長に就いていただきました。やはり、地元の力を借りなければ、事業を進めることは難しいですよ。市から買収した際の約束でもありましたが、従業員のみなさまには継続して働いていただいています。

 いまはホテルを出れば、外は真っ暗ですが、私の夢は、商店街の復活です。お土産屋さんが並んでいるような、これぞ観光地というイメージです。

 その実現のために、夕張の市民のみなさまにも協力してもらいたい。着物の着付けや、太鼓などの技術を持った人たちは街のなかに大勢います。そういうことをわれわれのホテルでお披露目していただき、海外からのお客さまを喜ばしてほしいと考えています。

 この夕張の地で頑張ってきた人たちとのコラボレーションには非常に期待しています。例えば、炭鉱時代の話を観光客にしてもらう。この物語は日本の子どもたちも喜ぶだろうし、海外観光客も当然、聞きたいです。協力していただいた市民には、ささやかではありますが、ホテルの温泉に入ってもらい、おいしい料理を食べていただきたいと思っています。

 地域と一体となって、地元の人とともに稼いでいく。これが、夕張への最大の貢献になると確信しています。そしてわれわれホテル側は、市民に親しみをもっていただくような努力もしなければなりません。まずは、市民対象の入浴料割引きなどを導入し、市民のみなさまに気軽に利用していただきたいと願っています。

呉之平氏 ©財界さっぽろ

まだ知られていない地域をまとめて宣伝

 ――北海道の観光産業が盛り上がるために必要だと思うことは何ですか。

  ひとつの企業ではできません。道庁などの行政と業界が一体となってプロモーションをおこなうことが重要だと感じています。

 極端なことを言うと、ニセコや洞爺湖、小樽、登別などすでに有名なところは宣伝をしなくても、海外から観光客はくるでしょう。

 やはり、夕張だけではなく、まだまだ海外から知られていない地域を一つにまとめてプロモーションをかけていくべきだと思います。

 一方で、問題だと感じていることもあります。サービスの質です。確かに、マナーの悪い中国人はいるでしょう。しかし、お客さまが大量に来ている現状に甘えて、サービスの質も悪くなってはいないでしょうか。すでに中国でもそういった声も出てきています。北海道のイメージ悪化にもつながるので、そうならないように、道庁や業界が指導していくことも今後は必要となってくると思います。

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 1月15日発売の財界さっぽろ2021年2月号では、経営破綻した夕張リゾートについての詳細をさらに深掘りして掲載する予定だ。