京王プラザホテル札幌、札幌プリンスホテル、ニューオータニイン札幌 総支配人“周年”記念座談会
2022年は札幌プリンスホテル、京王プラザホテル札幌、ニューオータニイン札幌が周年を迎える。それぞれの総支配人が一堂に会し座談会を実施した。開業からの歴史、コロナ対応、地域活性化への思いを語り合った。
DPI世界会議でバリアフリーが加速
2022年は、札幌を代表するシティーホテルが開業から節目を迎える。札幌プリンスホテルが50周年、京王プラザホテル札幌とニューオータニイン札幌はそれぞれ40周年にあたる。新型コロナウイルスの感染拡大で、観光産業は大きな打撃を受けている。ただ、手をこまねいてばかりはいられない。本誌は周年を記念して総支配人による座談会を企画。札幌プリンスホテルの寺本貢士氏、京王プラザホテル札幌の柴谷学氏、ニューオータニイン札幌の石垣慎一良氏にご登場願った。以下、座談会の様子をお届けする。
◇ ◇
――札幌プリンスホテルは1972年に開業しました。オープンに至った経緯をお聞かせください。
寺本 72年2月に札幌五輪開催が決まっており、この一大イベントにあわせて、1月21日に開業しました。
五輪開催を契機に札幌が国際都市に発展していくと考え、北海道でプリンスホテルが展開する最初のホテルとして進出しました。
――その10年後の82年5月に京王プラザホテルが札幌にやってきます。
柴谷 親会社は京王電鉄ですが、東京・新宿を拠点にどこにホテルを進出すべきなのか。当時、そんな議論がなされていました。札幌が選ばれた理由は、冬季五輪が終わり、ますますの観光需要が見込まれるだろうという考えからだと聞いています。
――ニューオータニイン札幌はその年の8月の開業ですね。
石垣 ホテルニューオータニ東京が、64年の東京五輪開催時に、外国の方々をお迎えするホテルが足りないということで、政府の要請を受けて開業しました。
その後、全国に進出する上で、地方都市にシティーホテルを建てるという流れで、札幌にオープンしました。当ホテルの周辺には何もなくて、隣には営林局がありました。
柴谷 札幌駅前ゾーンとしては、センチュリーロイヤルさんと全日空ホテルさんしかありませんでした。実はこの座談会があるということで、82年当時の新聞を見てみました。
当ホテルとニューオータニさんが進出してくるということで、「札幌市内でホテル戦争が始まりか」という見出しでした。激化という言葉が並んでいました。
――昨今のビジネスホテルはほとんどない時代ですよね。
寺本 はい。おそらくグリーンホテルさんくらいだったでしょうか。
石垣 宿泊特化型ではなく、宴会場を持っているホテルが多かったと思います。
――開業以降、札幌の発展を見届けてきました。これまででホテルにとって印象に残っている出来事を教えてください。
寺本 冬のスポーツの大会が開かれたときなどに、VIPの方々にお泊まりいただくにあたり、市内のホテルと連携して受け入れてきたことでしょうか。
柴谷 2002年にDPIの世界会議が札幌で開催されました。障がいを持つ方の集まりです。ホテルとしては受け入れに向け、福祉のまちづくり条例適合第一号ホテルを取得、全社をあげておもてなしをしたことが深く印象に残っており、将来を見据えたバリアフリー化を加速させたきっかけでした。
胆振東部地震で連絡網を再構築
石垣 私は18年に総支配人というお役目をいただき、着任5カ月後に胆振東部地震が起きました。
地震発生時、当ホテルの340室は満室で、530人が宿泊していました。韓国からの団体が130人、遠軽の修学旅行中の中学生が90人です。
地震が午前3時に起き、私も会社に電話したら、インバウンドのお客様がロビーに降りてきていると。すぐにラウンジを開放して、ドリンクなどのサービスをしました。
その日にチェックアウトするはずの韓国の方々が帰れず、宿泊する場所もありません。宴会場を開放して、シーツを引き、毛布や布団を出して、泊まっていただきました。
その日の夜、外に出ると暗闇のなか、ぽつんと灯りの見えるホテルがありました。当時のすみれホテルさんです。フロントスタッフに「困ったことがあれば言ってください」と話すと、「宿泊客の朝食の準備ができない」と。当ホテルの総料理長と相談して、パンとジュースをすぐすみれホテルさんに届けました。
逆に弊社のトイレが使えなくなったので、すみれホテルさんやホテルモントレーエーデルホフさんのトイレを使わせていただきました。お互いのホテルが協力して、ブラックアウトを乗り切ったということが大変印象に残っています。
寺本 実はホテル間は、けっこう連携しています。札幌のホテル同士は仲がいいんですよね。
柴谷 胆振東部地震後、市内のホテル間で改めて連絡網をつくりましょう、ということになりました。エリアごとに連携を強化して、そこに札幌市も加わります。大変な出来事でしたが、災害時などの関係を見直すきっかけになりました。
――このような座談会の機会はあまりない、とうかがっています。せっかくですので、何か聞きたいことがありましたら、それぞれから質問していただければと思います。
寺本 コロナという未曾有の危機で、社員のモチベーションが落ちてしまった際、どのように対処していますか。
柴谷 確かに士気が下がってしまう面はありますよね。踏ん張らなければならない中、コロナ禍でも何かできることがないだろうかと。
トップダウンではなくて、ボトムアップでみんなで考えて、乗り切っていこうという機運はございます。
小さなことですが、当初新入社員から、客室の窓を使いウインドウイルミネーションをやってみてはどうか、というアイデアが出ました。
「市民や医療従事者に元気を」という目的ですが、実は「自分たちも少し元気にならなければいけない」というメッセージも込められていました。
寺本 確かに社員から面白いアイデアがあがってきて、逆にわれわれのモチベーションにつながることもあります。
石垣 スタッフに助けられたという経験は何度もあります。いま、テークアウト需要が伸びています。
年末のおせち料理が売れるであろうと思い、数を用意しました。11月の予約は好調でしたが、12月でコロナが落ち着いてくると、伸び悩みはじめました。それでも社員が頑張ったおかげで完売となりました。大変助かりましたし、うれしかったですね。
ホテル従業員も“二刀流”の時代に
柴谷 少し現実的な話になりますが、異業種も含めて出向している社員もいます。そんな事例はありますでしょうか。
寺本 プリンスホテルでは他の事業所へ出向という形をとっています。
石垣 調理部門で、同業他社に出向しているケースはあります。そのホテルさんからは、助かっていると言っていただいています。
いま、ホテルの従業員も“二刀流”が求められる時代なんですよね。たとえば、宿泊予約のスタッフが予約の業務だけではなく、フロントの業務を手伝ったりします。営業の社員がレストランでサービスをおこなうこともあります。
寺本 まずはホテル内でマルチタスク化ですね。社員がいろんな役割を担えることが必要になっています。
柴谷 昨年、実際に宿泊の稼働が戻ってきたときに、人手が足りないという現実的な問題が起きました。今後、ホテル運営でもマルチタスクがスタンダードになっていくかもしれません。
石垣 コロナが収束すれば、個人需要が伸びると思います。ただ、プリンスさんも京王さんも、大きな宴会場を持っていますよね。宴会部門の法人需要、立食スタイルについてはどう考えていますか。
寺本 いま立食というと、お客様の中で敬遠される傾向にあります。会食はお客様同士がコミュニケーションをとる場ですよね。それが難しいと言われている状況ですから。
そうした声に対して、「この開催方法なら安全」というスタンダードを、ホテル側から提示していく必要があります。お客様から除々にご理解をいただけるようになれば、立食スタイルの宴会も増えてくるのではないでしょうか。
石垣 たとえば、最初の30分間は名刺交換をする。その後に料理をとり、着席で食べるような形にするという考え方もあります。
柴谷 プリンスさんと同じですが、感染対策をした上でどのように立食ができるのか。また、着席でのビュッフェ料理スタイルもあわせてご提案が必要ですね。
石垣 いまでは料理のビュッフェスタイルは当たり前になってきました。たとえば、個々盛りにしたり、手袋をはめて料理をとったり、マイトングを使用したりしています。
柴谷 立食となると、どのように密をつくらないようにできるのか。主催者とのお話の中で、見いだしていかなければなりません。
――これまで実際に、立食会場でクラスターが発生したケースはないのでしょうか。
石垣 はい。ホテルの感染対策は徹底していますので。
寺本、柴谷 石垣さんのおっしゃる通りです。
石垣 道や市からの助成金援助もありまして、感染対策の機器も多く購入しました。今後は宿泊だけでなく、立食もあたらしいスタイルを構築していかなければいけません。
柴谷 やり方はあると思っていますし、知恵を絞りやれると思っています。
寺本 もう少したてば、それぞれのホテルのスタンダードができて、よりよいスタイルが浸透していくのではないでしょうか。
石垣 2年前、確か京王さんが、最初に従業員がマスクをしたり、手袋をはめたりしましたよね?
柴谷 そうかもしれません……
石垣 そうした他のホテルの情報を得ながら、だんだんホテルの感染対策が構築されていきます。
柴谷 コロナが増え始めた頃、連絡をよくとりあっていました。
石垣 宿泊、宴会、調理の各部門で、ホテル同士の連携はできあがっています。
安心して泊まっていただき、レストランにも足を運んでいただきたいです。
――いま、レストランの話がでましたが、開業時からの名物メニューとかはあるのでしょうか。
柴谷 当ホテルは子牛の白いソーセージを、オープン時からご提供させていただいています。40年前は非常に珍しかったようです。多くのお客様から「おいしいね」と言っていただき、ふと考えてみるとオープンから提供していたことに気づかされました。
寺本 50周年を記念して、ビーフストロガノフやエスカルゴといった復刻メニューを提供させていただいています。いまはどこにでもあるメニューかもしれませんが、半世紀前ならここのホテルでしか食べられない、という料理です。いま食べてみると、その当時の記憶が甦ってきます。
石垣 コロナ禍で人気が急上昇しているのが、アフタヌーンティーセットです。中華の担々麺も女性を中心に根強い人気があります。
札幌に都市型スキーリゾートの可能性
――ポストコロナに向けて、北海道の観光活性化にどのように寄与していきますか。
寺本 ホテルで過ごされる時間は、誰にとっても“小さな旅”だと思うんですね。お客様にとってたった一度きりの時間を過ごしていただく中で、笑顔でほほえんでいただけるように努めることが私たちの使命と考えています。この先、50年、100年後も、いつもお客様のそばに寄り添うホテルであり続けたいと思っています。
柴谷 スタッフの発案から、「シリワール」という造語をつくり、そのテーマのもと、さまざまな取り組みをおこなっています。
これは“土地”を意味するアイヌ語「シリ」、“土地の個性”を意味するフランス語「テロワール」を組み合わせたものです。
札幌、北海道をよく調べてみると、知らなかったことが多いんです。自分たちが住んでいる身近なよさをあらためて知った上で、お客様にきちんと発信できる。地域の持続的発展に貢献できるホテルを目指していきます。
石垣 北海道のスーパースターの松山千春さんの代表曲に「大空と大地の中で」がありますよね。歌詞のように大自然と食が宝庫です。
今後、道内企業や各種の協会・団体としっかり連携を深め、SDGsを意識したフードロスのないホテル運営を図っていきます。
札幌は都市型スキーリゾートとして、ますます注目されていきます。道外のスキー客、インバウンド誘致に取り組み、お客様のお役に立つように貢献していきたいです。
――最後に今後の予定されている周年企画について教えてください。
寺本 いま、ロビーや敷地内にスペースを設けて、50周年を記念したモニュメントを設置し、記念撮影ができるスペースも設けています。先ほど申し上げましたが、各レストランで周年を記念したメニューや宿泊プランをご用意しています。
柴谷 5月の記念月に向けて準備を進めています。宿泊プランや記念メニューも企画しています。また、当ホテルと同じく周年を迎える企業とのコラボも予定しています。
石垣 4月22日と23日にホテルニューオータニ東京の中華の「大観苑」のコース料理フェアを実施します。そのほか、8月にはものまねタレントの荒牧陽子さんのディナーショーを予定しています。
……この続きは本誌財界さっぽろ2022年4月号でお楽しみください。
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