秋元克広・札幌市長「五輪は札幌の先進性を世界に示す好機」
2022年、札幌は市制100周年を迎える。コロナ禍で秋元克広市長は厳しい舵取りを強いられたが、確かな光明も見えてきた。30年冬季オリ・パラ招致を機に、〝スノーリゾートシティSAPPORO〟の魅力と先進性を世界に発信していく。
招致プロセスが変わり透明に
――札幌市は11月29日、招致を目指している2030年冬季オリンピック・パラリンピックの開催概要案を公表しました。ただ、五輪開催に対しては、東京2020の負のイメージが拭いがたい状況です。招致に関わる不明朗な支出が必要になったりはしませんか。
秋元 実は招致のプロセスが全く違うものになりました。以前は、招致合戦がプロモーション含め、いろいろな形で行われたので、東京オリ・パラでもかなり招致経費がかかりました。しかし、その後、IOCの五輪開催決定の仕組みが全く変わりました。「将来開催地委員会」を設置し、候補地として可能性の高い都市をセレクトしていくことになりました。
まず開催に関心がある都市に手を挙げてもらい“継続的な対話”というステージで、例えば会場をどうするのか、経費はどうなるのかなどのやり取りをします。それを踏まえ次に、開催の実現性の高い都市を理事会に推薦し、理事会が承認をしたら、すぐ総会にかけることになりました。
したがって、招致合戦というものができなくなった。非常に透明性が高いシステムです。2032年の夏のオリンピックがオーストラリアのブリスベンになりましたが、このプロセスを経て決まりました。これまでの招致合戦と比べると、札幌も招致経費はほとんどかかりません。
――札幌市は今後、IOCとの関わりで何をしなければならないのでしょう。
秋元 “熟度が高まったな”という状況になったら、将来開催地委員会が“狙いを定めた対話”を始めます。そこで、政府の保証や支援、住民の支持などの状況を満たしている、開催可能性の高い都市を推薦する仕組みになっています。札幌開催の利点を提示することも必要です。2030年冬季五輪開催地は、こうしたプロセスを経て決定されます。
――そうすると札幌市として重要になってくるのは、市民合意の部分ですね。
秋元 2026年大会への立候補は、上田文雄前市長時代の2014年に住民意向調査で6割以上の方の支持を集め、市議会でも招致に向けた決議をいただいた。しかし、2018年に胆振東部地震がありました。実は、その直後に“狙いを定めた対話”に入る予定だったのですが、地震からの復興を優先するため、2026年五輪への正式立候補を目前にして断念せざるを得ませんでした。
ただ、札幌市の意向は「ここで一旦は断念をするけれども、30年に向けた対応は継続させてほしい」ということだったのです。震災の被害が大きかった里塚などの復興に目処がついたことから、2019年の段階でJOCが改めて2030年五輪の国内の立候補地を呼びかけたとき、札幌だけが手を挙げました。
2026年大会がイタリアのコルティナダンペッツォに決まった際、スウェーデンのストックホルムが降りたのは、住民の支持率が上がらず、政府保証も付かなかったからです。
札幌市は持続可能な開発目標(SDGs)のその先の未来も見据えた「札幌らしい持続可能なオリンピック・パラリンピック」の開催を目指しています。大会の開催意義を多くの市民のみなさんに理解していただき、共感を得られるようにするため、さまざまな機会で市民対話を進めていきますし、市民意向調査も実施します。
札幌は2022年、市制100周年を迎えますが、2030年大会の実現に向けて取り組む中で、次の100年を見据えた“持続可能なまちの礎”をつくっていきたいと考えています。
――今回の五輪招致で目玉となるのは、どのような点ですか。
秋元 私は北海道・札幌五輪だと考えています。
札幌の提案で重要なのは、既存の施設を最大限(90数パーセント)利用することによって、72年冬季札幌五輪のレガシーをしっかり受け継いでいきます。
競技会場は札幌市以外も想定しています。スピードスケートは、2017年冬季アジア大会でも会場となっていただいた帯広市にお願いします。“スノーリゾートシティSAPPORO”を目指す上で連携が欠かせない、ニセコエリアの倶知安町とニセコ町には、アルペンスキー競技の会場になっていただきます。そり競技は、1998冬季五輪を開催した長野市に協力を仰ぎます。
また、運営にかかわる要員を見直すなどもした結果、開催経費は2800億円から3000億円となる見込みで、一昨年の試算より約900億円減らしました。大会運営費はIOC負担金、スポンサー収入、観戦チケットの売り上げで賄い、税金は投入しません。施設整備費も国の交付金などを利用し、市の実質負担は約450億円にとどまると考えています。そういう意味でも評価と共感を得られるのではないかと考えています。
環境・交通・健康等で新技術を模索
――インフラ整備には、五輪競技場のみならず、道路、交通機関、地下街、札幌駅周辺開発を含むさまざまなまちづくりが必要だと思います。市長のお考えを聞かせていただきたい。また、札幌延伸予定の北海道新幹線開通は五輪に間に合いますか?
秋元 新幹線はいまのところ2030年度末開通ということになっていますが、正式に招致が決まったら1年前倒しを改めて要請します。その際、国の予算措置も必要ですので、われわれは「1日も早く開業していただきたい」と言っております。ただ、トンネル工事等が多く、現場の工事担当者からは「いまのスケジュールでも目いっぱい」という声も出ています。しかし、オリ・パラ招致が決まった後には判断も変わってくると思いますので、五輪開会と新幹線開通がつながってくれればベストだと考えています。
そして、新幹線効果を最大限に生かすため、札幌駅周辺のまちづくりは、関係者としっかり連携して進めていくことが重要と考えています。駅の再開発はもちろんのこと、北5西1・西2地区でバスターミナルの再整備を行い、交通結節機能の充実に努めます。ほかにも北4西3地区や北8西1地区をはじめとした駅周辺再開発を札幌市としても支援しています。
新幹線が来たときには、これらの施設がオープンしているという状況になる予定ですので、オリンピックが30年2月になっても、駅前が工事中という景色にはなりません。
それ以外の交通アクセスについては、30年までに完成させるという計画にはなっていません。市電の都心部の延伸などの要望もありますが、レールにこだわらず、AIを活用したデマンド交通や水素燃料車両の導入など、新たな公共交通システムも含めて検討しているところです。
今回、オリンピックのキーワードに挙げているのはサステナブル(持続可能な)です。札幌市は、国からすでに「SDGs未来都市」に選ばれていますが、そのSDGsは国連で2030年を目標としています。
また、50年までのゼロカーボンという目標も前倒しでやっていくことになりそうです。したがって、2030年は脱炭素という意味でも大きな節目の年だと考えられます。
札幌は天然雪で競技ができる数少ない都市ですから、地球環境という点での先進性に優れた都市であることを世界に訴える機会にしていきたいと思います。選手村と競技場を結ぶ交通機関も、環境負荷の低い乗り物をいろいろな企業と共同で論議をしていきます。この中から生まれた成果をもとに日常的な利用方法を検討するプロジェクトも立ち上げたいと思います。
30年までに新たに使えるシステム、技術をロングランでプロジェクトが研究し、五輪で最先端の環境技術を発信していければと考えています。また、スポーツ医学、健康医学を一般に普及させていくことも健康に関するプロジェクトとして位置づけたい。社会保障、医療費、介護の経費軽減につながっていきます。
二重行政解消で「特別自治市」検討は?
――札幌市は道と協議を重ねながらコロナ対策を行ってきましたが、道の対応の遅さに秋元市長はいら立っていたように思います。指定都市市長会は2010年5月、道府県が市域内で担う全ての事務を行い、道府県と同等の権限を持つ「特別自治市」構想を提案しています。札幌市は今後、特別自治市となる考えはありますか。
秋元 指定都市は現在でも道路行政とか都市計画など、いろいろな権限が法令にしたがって道府県から移譲されています。しかし、残念ながら感染症の関係の多くの権限は移譲されていません。感染症法の病床確保を医療機関に要請することはできたのですが…。今回のコロナ対策特措法は新型インフルエンザ特別措置法を一部改正したものなので、知事に全部権限があって、市町村長は“知事に要請することができる”ということにとどまっています。いままでの流れからいえば、特措法でも指定都市に権限がある、ということにすべきでした。
ですから、札幌でコロナが拡大して人口10万人あたりの感染者が25人を超えたとしても、北海道全体ではそこまで至っていない。そうすると国も「北海道全体ではそうなっていないので緊急事態宣言は出せませんよ」となってしまう。そのため宣言を出すのが1週間、2週間あとになってしまい、ブレーキを踏んだときにはもう遅いという事態が起きてしまいました。
「北海道はものすごく広いんですよ。それなのに道庁一人で面倒を見ろというのは無理じゃないですか。しかも大都市とそれ以外では感染状況も全く違うのに」と私はよく本州の人に言うのですよ。
今後出て来る感染対策で札幌は別立てになりますが、権限的には変わらないんですよ。緊急包括支援交付金も道府県にしか入らない。ホテル療養施設を北海道につくるようにと言ってもなかなかつくってくれなかった。こういう経費も全部、道と調整しなくてはならないので、スピード感に欠けました。
コロナ関連の話を別として特別自治市について言うと、全部の指定都市が賛成しているわけではありません。北海道で札幌が特別自治市になったら権限的に道と横並びになり、札幌にとってはいいのですが、札幌が抜けた後の北海道はどうなるのかという問題が生じます。警察権限の問題もなかなか難しいですね。ただし、特別自治市に関する法整備はあらかじめやっておくべきです。選択肢はつくっておき、住民が判断するべきだと考えます。
……この続きは本誌財界さっぽろ2022年1月号でお楽しみください。
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