「チェンジ&チャレンジする放送局に!」桑田一郎・TVH新社長の決意
テレビ業界はいま、コロナ禍、ネット時代の影響を大きく受け、転換期にあるといわれる。道内ローカル局で独自性を貫くTVHも、デジタル分野への取り組みを模索中だ。日経出身の桑田一郎新社長に話を聞いた。
日経時代に札幌のITベンチャーを
――1カ月ほどたちましたが、社長就任への思いを聞かせてください。
桑田 テレビ局を取り巻く環境は非常に厳しいですから、身の引き締まる思いです。
業界としては、直近では昨年来のコロナ禍、近年ではインターネットとの競合の影響を受けています。
コロナ関係では、多くの業種が打撃を受けていますが、全国200社近くあるテレビ局も相当数、減収減益の赤字になっています。
TVHは昨期、減収ではありましたが、増益を維持できました。ただし、これはコスト削減などによる効果が大きかった。社員の努力のおかげだと感じています。そのため、当社も厳しい環境にあります。
ネットに関しては、たとえば、若者のテレビ離れが顕著になっています。これが放送収入に影響を及ぼしています。
――日経での記者時代はどういった分野の取材を。
桑田 産業に関する分野が中心でした。企業取材が多かったですね。
TVHに転籍してきて、私自身、北海道・札幌で働くのは2度目となります。1度目は日経時代、初任地の配属先が札幌でした。
期間は3年間でしたが、当時はまだサッポロバレーと呼ばれる前で、ITベンチャーの盛り上がりの機運が高まろうとしていた時期でした。
新人ながら、それらを応援する記事を中心に書いていました。いまでも強く印象に残っています。
札幌に戻ってきて感じたことは中心部の街並みが変わりつつあるということでした。私がいたころにあったビルもだいぶ古くなっていました。
中心部は引き続き、再開発の機運が高まっていると思います。そういう意味ではこれからの札幌が楽しみですね。
――趣味などは。
桑田 旅行。そして下手なゴルフですかね(笑)
今はコロナ禍でだいぶ制限がかかっていますけれども、行ける範囲内で北海道観光を楽しんでいます。
――仕事のフィールドが新聞からテレビに変わりました。戸惑いなどはありましたか。
桑田 あまりありませんでした。ただ、両方とも、時代の波の影響を大きく受けている業界だとは感じました。
日経時代には経営企画室長のほか、営業部門の責任者を務めた経験があります。テレビも広告収入が重要ですから、経営については、しっかりと制作面と営業面の両方を考えて行っていきます。
デジタルとデータを経営の柱に
――社長として取り組んでいくことは。
桑田 この春、中期経営計画をまとめ、会社の方針を示しました。もちろん放送収入は大事ですが、それ以外にどうやって収入を増やしていくかということを考えました。
そして、中期経営計画の中で、デジタルとデータという「D&D」を経営の柱にして、取り組んでいくと打ち出しました。
1つ目のDである、デジタル分野については、今春、デジタル編成部とデジタル営業部の新部署を立ち上げました。昨年つくった新規事業開発室も規模を拡大して、新たな分野の可能性を模索していきます。
既に始めた取り組みとしては、ライブコマースやオンラインツアーなどです。これまで、あまりテレビ局としては手掛けてこなかった事業を新たにスタートさせました。
――ライブコマース、オンラインツアーとはどういったものですか。
桑田 ライブコマースとは、ライブ配信を見ながら商品を購入できる通販ツールのことです。
オンラインツアーは、例えば、美術館内を生配信するというものです。当社では今春、実行委員会形式で、毒などを持つ危険な生物の展覧会「もうどく展」を開催しましたが、夜の餌やりの様子を配信したりしました。
――もう1つのDである、データ分野については?
桑田 視聴者がどういった番組を求めているのかというデータをきちんと収集して、番組づくりに生かしていきます。
このように新たな取り組みを始めたわけですが、今回の社長就任を機に「チェンジ&チャレンジ」を掲げて実行していきたいと考えています。そうした放送局を目指します。
チェンジはこれまでの慣例や常識にとらわれず、チャレンジは新たな分野にどんどん挑戦していくということです。
――放送事業は転換期にあるとも言われます。ネット配信など、デジタル分野は地方局も力を入れ始めています。
桑田 全国ベースでみても、NHKの同時配信が始まり、各局共通の模索事案になっていると思います。これはキー局、地方局に限らずです。
私としては、ネットは競合相手ではなく、パートナーであるとの認識です。たとえば、テレビ局の強みは映像制作。その強みを生かして、ネットと連動させることで可能性は広がると考えています。
そういう意味では今後、コンテンツ力が勝負になってくるのではないでしょうか。
当社では「サバイバルゲーム」にフォーカスをあて、7月にまずはネット配信を行い、その後、連動させたテレビ番組を深夜に放送しました。
ネット配信ではサバイバルゲームのイロハのイを紹介し、番組では実際にプレイしてみるという構成になっています。テレビとネットの連動ではこれまでにない発想ではないかと思っています。
このほか、6月に北海道のカレーを紹介する、ケンドーコバヤシさんら出演の「ケンコバカレー部」を全国放送しました。番組終了と同時にライブコマースをスタートさせ、商品を販売しました。全国各地から反応がありました。
こうした新たな取り組みに対して、視聴者や利用者から好意的な声を頂戴していますが、まだ十分に浸透しているとは言えません。経営の柱にしていくのはまだまだ先の段階です。
当社では放送事業とともにイベント事業も収入の柱になっていますが、現在はコロナ禍でなかなか十分な開催ができない状況にあります。
まだ先の話ですが、新たなデジタル事業がイベント事業を補完してくれるぐらいに成長してくれればと思っています。
――キー局・テレビ東京と通ずるものがあると思いますが、先ほどのサバイバルゲームなど、近年、独自性を貫く番組づくりを続けています。
桑田 テレ東の影響も大きいんだろうと思います。先ほど述べたチャレンジという意味で、引き続き、これまで扱っていないような分野の番組づくりも挑戦していきたいと思っています。
社員からもたくさんアイデアを出してもらっています。なるべく採用していきたいです。
ただし、当社はテレ東系列の中でも、それほど自社制作番組が多いというわけではありません。長く放送している情報番組「旅コミ北海道じゃらんdeGO!」などもありますが、そういう中で、どう特徴を出していくかということを模索しています。
北海道を元気に、道内経済を強く
――テレ東や株主関係がある日経、北海道新聞社などとの新たな連携の可能性は。
桑田 いろいろと考えていますが、まだ発表できる段階にはありません。
――北海道地区では昨年から視聴率の調査方法がこれまでの世帯から個人にシフトしました。
桑田 全国的な流れですが、近年、テレビ離れの影響から視聴率全体が下がっています。その中で、ターゲットにあった番組をどう提供していくかという指標が必要だということで個人視聴率が導入されたと認識しています。
――ほかの道内民放4局と比べて、売上高、視聴率では少し差が開いています。追い付け、追い越せという高い目標などは。
桑田 いえいえ、おこがましいですよ。謙虚に一歩ずつ、引き続き、独自性を貫いていきます。
ただし、北海道を元気にする、北海道経済を強くする、そういった面を取り上げていくことは、テレビ局、メディアとしてTVHの使命だと思っています。そこはどの局にも負けないくらいどんどんフォーカスしていきます。
……この続きは本誌財界さっぽろ2021年9月号でお楽しみください。
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