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2020年

安全安心な札幌、北海道にしていくことが「おもてなし」になる

秋元克広 札幌市長

緊急事態宣言が解除された北海道内。だが企業に与えた影響は深刻で、本格的な経済活動の再開が再流行を引き起こす可能性もある。ウィズコロナの時代をどう迎えるのか、道都・札幌のリーダーにその対応策を聞いた。(取材=6月5日)

©財界さっぽろ

予算の組み替えなどで財源を確保

――新型コロナウイルス感染症について、北海道内では5月25日に緊急事態宣言が解除されました。

秋元 期間中、市内の経済活動への影響は深刻なものがありましたが、ウイルスがなくなったわけではありません。感染予防対策は継続しつつ、経済活動と両立させていく段階に入ったところです。

――札幌市では前年度からの既往予算での対応に加え、今年度の3度にわたる補正予算と合わせて、約3100億円の対策を打ちました。

秋元 6月の第2回定例会では、第3弾の対策となる補正予算を組みました。

まず、事業者が感染拡大防止に取り組んでいただくための支援金や資金繰りの支援を拡充しています。経済活動再開の第1段階として、プレミアム付き商品券の発行、割引クーポン券といった、市民による市内消費の拡大を後押しする取り組みも盛り込みました。

――市内の事業所で2、3月の売上高が約5500億円減少したという試算を公表されました。緊急事態宣言中の4、5月はさらに減少幅が拡大していると思いますが、消費喚起対策は10億円単位と小規模に留まっています。

秋元 国で決めた対策に基づき市に配分された交付金と、市の貯金である財政調整基金が各種対策の原資になります。

一方で、地方債については建設などの公共事業にしか充てられません。市債を発行して経済対策をすることは法律上できませんので、国の対策に沿ったものが基本になります。国や道の制度や仕組みを補完し、きめ細かく対応していくことが市町村の役割となります。

企業向けの融資であれば、国が政府系金融機関などを通して無利子無担保融資を実施していますが、それを補完するため、金融機関の審査だけで速やかに融資が実行できる、つなぎ資金の制度(新型コロナウイルス緊急資金)を創設しました。これは最短2日で融資が実行されるものです。

また、新型コロナ対策の融資制度全体で350億円の融資枠を設定しましたが、すでに累計融資額は400億円を超えていて、800億円まで枠を拡大しました。こうした相談を一括でできるワンストップ相談窓口も開設しました。

最大100人まで採用予定の臨時雇用創出事業や、新型コロナの影響で離職された方を対象とした就職支援なども実施しています。

――本年度予算の組み替えなど、抜本的な財源捻出方法もあると思います。

秋元 国の2次補正予算で地方創生臨時交付金、医療関係で使える緊急包括支援交付金が上積みされました。道内は札幌市を中心に感染者数が多かった上、東京都のように財政の余裕があるわけではないので、手厚く措置していただきたいところです。

今年度当初、市の財調基金は約200億円ありました。それを当初予算の28億円に加え、これまでの補正予算で約73億円使うため、残りは100億円ほどです。

ただし、冬の除雪費について、過去に補正予算として100億円以上追加した時があります。今年も大雪の備えとして、ある程度確保することが必要です。

今年度の当初予算には、イベント事業など新型コロナの影響でストップせざるを得ず、予算を執行していないものがあります。先送りが可能な事業もあるので、予算の組み替え、減額補正をして新たな財源にすることも必要だと考えています。

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市に権限があればできたことも

――道、そして鈴木直道知事との連携について、この3カ月間を振り返るとどのように感じていますか。

秋元 鈴木知事とは私が夕張市出身、知事は前夕張市長というつながりがあります。ここまでの連携について、重要な局面では直接電話で話をして物事を進めてきています。

その上で、感染症対策が都道府県単位でおこなわれる中、感染症の広まりについては道内で状況にかなりの差があるので、札幌圏とそれ以外の地域での対応は全く異なります。都道府県をまたぐ移動の自粛要請は続いていますが、それは札幌圏と道内のそれ以外の地域に関しても同じことが言えます。

――対策は道内一律ではなく札幌圏とそれ以外で分けたほうがよかった。

秋元 それができればもっとスムーズに対策できた面はあるでしょう。

札幌市は、保健所も自前で抱えていますし、高度な医療に対応した病院もあるので、権限があればまた違う対策ができたと感じます。

――市独自でできたほうがよかった対策は。

秋元 新型コロナは指定感染症ですから、陽性とわかれば無症状や軽症だとしても、病院などに隔離する必要があります。

感染が拡大した4月上旬の段階で、札幌市内の病床数はすでにいくらあっても足りないという状況でした。

厚生労働省では、軽症者については病院以外にもホテル等の療養施設をつくっていいという通知を出していましたので、道や厚労省には実際に要望をしました。ですが、道内全体の病床数は足りていたので、実際にホテルでの受け入れを始めるまで時間がかかりました。

市に権限があれば、病床数不足の切迫感はもっと前に解決できたのではないかと思います。そうした仕組みの壁は残ったのかなと。

――知事と実際にトップ会談で決めたことは。

秋元 休業要請とともに感染拡大防止に取り組む事業者の皆さまへ支援金を支給することになった際、市よりも道の財源のほうが厳しい情勢ですし、全道で手立てを打つ必要もありますから、かなりの財源が必要になります。そこは知事と直接話をして市と道が協力して支援金を支給することを決めました。

4月に札幌圏で急速に感染拡大が進んだ際には、知事と共同でメッセージを出しましたが、これも市には権限がないので、知事とともにやる必要がありました。学校の休校や企業支援などのタイミングも含めて、そこはトップ同士の話し合いで決めています。

下から積み重ねていく時間的余裕がなかったこともありますが、直接話をしないと決まらなかったし、決められませんでしたから。 

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メディア経由の発信では足りない

――新型コロナに関する広報や情報発信について、苦心している様子が伝わります。

秋元 今年4月から、YouTubeで記者会見の同時配信を始めました。市内や道内でなぜ感染が拡大しているのか、学校の休校についてやクラスターの発生といったところをお伝えしています。

これまでの記者会見では、新聞やテレビの記者さんに向けた情報提供の側面が強かったのですが、どうしても全編ではなく一部分の情報になってしまう。できるだけ多くの情報を出していく必要があると考えて取り組んでいます。

――SNSの活用は。

秋元 多くの人へ一度に拡散する効果がある一方、誹謗中傷につながるだとか、使い勝手の面で問題もあります。ただ、必要な情報を市民に届けるということでは、メディアの方々に協力いただくだけでは足りない、という時代になってきたのだろうと思います。

SNSを使われていない方々向けに、これまで同様にメディアを通じて情報を届けることは必要です。

その上でSNSについては、もう少し上手に活用していくことが求められていると考えています。

今から新しい時代に対応した準備を

――中長期的にはどのような視点でまちづくりをしていきますか。

秋元 中期的な視点での取組としては、都道府県をまたいだ国内需要を取り込み、経済を回復軌道に乗せるための取り組みが考えられます。たとえば観光であれば国が準備している「GoToキャンペーン」などと、歩調を合わせていくことになります。

さらにその先、長期的な取り組みとしては、海外需要の回復への対応などがあります。これは世界的な感染症の状況や景気動向、消費マインドなどにも影響されます。いずれにしろ、新型コロナ前の水準に戻るには、相当の時間を要すると考えています。

今の時点でどうなれば次のフェーズに進めるのか、先を見ることは難しいのですが、2、3週間、あるいは1カ月単位で見極めた上で政策を進めていくことになります。

――食と観光という北海道経済の売りが、ウイルスの根絶が難しいとされる中で転換を迫られています。

秋元 北海道は内需が強いわけではないので、道外、国外の方々に来ていただいて、お金を使ってもらう形で経済が循環していました。今後もそのベースは変わらないと思います。

であるなら、アフターコロナ、ウィズコロナの時代でも安心して多くの方々がお越しいただけるよう、感染拡大につながらない対策を、市も道内全体としても取っていく。それがこれからの時代の「おもてなし」になるんだろうと思います。

札幌、北海道には非常にいいものがそろっています。実際、インターネットなどの通信販売で道内の商品をご購入いただく方は増えていますよね。現状は、そうしたところから北海道の良さをアピールし続けていく。いずれまた札幌、道内にお越しいただく時期が来るでしょうから、その時への備えをしっかりしていくということが必要でしょう。

――具体的にはどのような準備でしょうか。

秋元 先日、星野リゾート代表の星野佳路さんとテレビ番組でご一緒しましたが、ホテル業界でもテレワークできるような環境をつくらなければいけないと話されていました。

感染拡大の中でテレワークがかなり普及してきましたから、たとえばホテルなどに長期間滞在して仕事をしながら、時折リフレッシュするとか観光につなげるとか、そういう方法はあるかもしれません。

それが可能な通信環境を整備していくといったことが新しい時代に対応した備えになるでしょうし、今から仕込んでいかなければならないのだと思います。それが北海道の魅力として感じていただけるようになればいい。市としても、そうしたこれからの時代に打って出ていく手立てに対してお金を投じていくことが必要だと思います。


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