【対談】サツドラHD富山浩樹社長×ヴォレアス北海道池田憲士郎社長
【対談】スポーツ×企業×地域
大都市に腰をすえ、大企業をバックにするプロ野球球団。その正反対にいるベンチャーが道内にある。旭川圏を拠点とするバレーチーム・ヴォレアス北海道だ。社長の池田憲士郎氏とサツドラグループの富山浩樹社長は昵懇の間柄。地域に根を張るプロスポーツチームと地元企業の目指すべき関係について対談をしてもらった。
挑戦続ける者同士すぐに意気投合
――知り合ったのはいつ頃ですか。
富山 2018年12月に札幌で開かれたスポーツビジネスサミットで初めてお会いしました。
EZOCA(エゾカ、グループ会社で展開する地域共通ポイントカード)を通じ、北海道コンサドーレ札幌とレバンガ北海道にかかわっていたのでご依頼を受け、話をしました。
そのトークイベントに池田さんもいた。実は、ヴォレアス北海道について当時はほとんど知りませんでした。だから池田さんを見て、ずいぶん背が高かったので現役選手かなと(笑)
池田 元選手です(笑)
初めてお会いしてからちょっと間があって、富山さんといろいろと話をしていくと、共通の知人や友人が何人もいることがわかり、自然と近い間柄になっていった印象です。
ただ、スポーツビジネスサミットの前にも“共演”をしているんです。「財界さっぽろ(2017年11月号)」で。「挑戦」というテーマの特集の中で私の前のインタビュー記事として掲載されていたのが富山さん。ほら(実物を示す)
富山 あッ!ホントだね。気づいてなかった。当時はもう社長だったの?
池田 株式会社化をする前で本部長でした。
――ヴォレアスに興味を持った理由の1つが、なぜ旭川圏を拠点にしたのか、でした。プロチームなら人口の多い札幌での旗揚げを考えるのでは。
池田 チーム設立を検討し始めた時、まず世界のスポーツチームの事例を調べていきました。すると、ヨーロッパでは、数万人規模の町にプロサッカーチームがある。国内では鹿島アントラーズの本拠地も、大都市ではありません。
人口規模は確かにプロチームが成立する大きな要素ですが、旭川市で約30万人、周辺を入れると40万人。十分にいけると考えました。
むしろ旭川圏を拠点にすれば、いけると。旭川圏初のプロチームという話題性に加え、ブルーオーシャン(競争相手のいない未開拓市場)だと。
もちろんゼロから始める苦しみはあります。しかし、札幌で旗揚げして注目されたでしょうか。たぶん「なんかバレーのプロチームができたね」程度の印象で終わったと思います。サッカーやバスケと比較すると、客観的に見てバレーのVリーグの盛り上がりはまだまだですから。
――どでかいスローガンにもひかれました。「Children of the Revolution」、バレーで革命を起こすというのですから。
富山 そういった野心的な旗を立ててやっていくことに私は強いシンパシーを感じました。私自身もサツドラグループも、変化を恐れずに挑戦を続けるチャレンジャーです。
池田さんと意気投合し、すぐに一緒に仕事をしましょうという流れになりました。(編集部注・昨年からエゾカとヴォレアスがコラボしたポイントカード「ヴォレアスEZOCA」がスタートしている)
バレーチームは地域活性化の手段
――池田社長は以前から、パートナー企業と新しい価値やモノを生み出したいと言っています。
池田 企業はなぜプロスポーツにお金を出すのか、とずっと考えていました。ストレートに言えば、資金をいただくのはうれしいのですが、そうした関係で満足していいのか疑問でした。
普通の会社同士の関係を考えてください。私もサラリーマンをずっとしてきましたが、片方が資金を渡すだけのビジネス関係なんてないでしょう。
ではスポーツチームの特徴や強みは何でしょうか。私が意識しているのは、プロスポーツはいろいろな業種のみなさんと接点を持つことができることです。
つまり、ヴォレアスを介在して異業種の企業をつなげることができる。プロスポーツチームは、プラットフォーマーとしての機能を果たせると思います。そして、一緒に新しいモノを地域内で生み出していく。
富山 その考え方に全く同感です。私たちも同様のスタンスでコンサドーレやレバンガとも取り組んで来ています。
池田さんはよく「バレーは地域活性化の手段」と言っており、その考えはサツドラグループの思想と非常に似ています。ドラッグストアやエゾカは地域活性化のツールであり、地域との窓だと考えています。
そうした共通の土壌があった上でサツドラグループにもメリットがあると判断し、昨年からヴォレアスと手を組みました。
サツドラとしては、旭川圏はこれからさらに浸透を深めたいエリア。エゾカの世帯普及率は道内全体では70%弱ですが、旭川圏のエゾカ加盟店はまだ多いとは言えません。
ヴォレアスと一緒に育っていこう。そういう思いで「ヴォレアスEZOCA」を始めました。
これまでの知見を生かしながら一緒に地域マーケティングをおこない、一緒に加盟店やファンを増やしていきたい。
――エゾカの地域マーケティングについてもう少し教えてください。
富山 コンサドーレを例にすると、にわかファンやたまに試合に行くファンを増やしましょう、というアプローチで始めました。
サツドラのお客さまやエゾカ会員には若い世代が多い。一方、コンサドーレは若いファンを増やしたいと考えていました。
そこで「コンサドーレEZOCA」を通じて一緒にマーケティング、プロモーションに取り組み、お互いの会員、お客さんを増やしていきました。
このカードを使って買い物や飲食をすると、金額の0・5%がコンサドーレに還元されます。お客さんはポイントを貯めてお得な上、使ってコンサドーレを応援する。感情の乗ったファンマーケティングです。「ヴォレアスEZOCA」でもほぼ同様の取り組みをしています。
スポーツチーム、エゾカ、お客さん、このウイン・ウイン・ウインの仕組みができた結果、現在では、コンサドーレのオフィシャル会員よりも「コンサドーレEZOCA」の会員数の方が多くなっています。
レバンガとは、さらに踏み込み、公式ファンクラブの会員証自体が「レバンガEZOCA」カードです。
それから、もう1つ重要な点、大きな成果と考えているのはコミュニティーがつくれたことです。
エゾカがコミュニティー同士をつなぐ
――コミュニティーとは。
富山 チームのパートナー企業やスポンサー企業、ファンとのコミュニティーです。いわば横の交流です。パートナー企業同士で一緒に企画をして営業をし、盛り上げていく。
実例を紹介しますと、コンサドーレとはサッポロビールとも連携して「サッポロクラシック EZOCAコンサドーレ応援缶」を出し、売場を確保しています。
毎年、発売時期になると、ファンの話題になり、わざわざ探してお買求めいただく方もいらっしゃいます。レバンガにも働きかけ、同じ様な取り組みをしています。
現在では、コンサドーレとレバンガのそれぞれのコミュニティーをつなぐ橋渡し役を、エゾカが果たす場面が増えています。
――おもしろいですね。
富山 地域プロスポーツのマーケティングは、お客さま向けだけでなく、こうした企業同士の交流ができる面が特徴でしょう。おそらく特定の企業の色が濃いプロ野球の球団では難しい。地域に根差すプロスポーツだからこそできる。
もちろんチームにとってもプラスです。パートナー企業同士がある意味、勝手に盛り上げる仕掛けをやってくれるわけですから。
池田 私も、それが地域のプロスポーツと地元企業の目指すべき姿だと。
例えば、本田圭佑選手が所属していたVVVフェンロ(オランダ)というサッカーチームは、ビッグクラブがひしめく競合地域の田舎町にありながら、長きに渡って続いています。その秘訣の1つがビジネスマッチングの徹底です。
パートナー企業のリストがあり、希望する企業とマッチングをしてくれる。スタジアムにはビジネスラウンジがあり、応援しながら商談をするわけです。そしてお互いに業績を伸ばし、チームにも貢献していく。
――ところで富山社長は、Vリーグ入れ替え戦中止に対する署名運動の発起人になりました。
富山 事情を知って、これはおかしい、と思っていたところ、池田さんの仲間の人やヴォレアスのファンが署名活動をしようとしていると聞きました。少しでも力になればと思い、発起人になりました。
◇ ◇
バレーの国内トップのVリーグは3月9日、新型コロナの影響で1部と2部の入れ替え戦中止を決定。2部2位だったヴォレアスは突然、昇格のチャンスを奪われた。
一方、JリーグとBリーグは“降格なし・自動昇格”で対応している。
どのようにして決定を下したのか――ファンらの間で膨らんだ疑問が署名運動につながった。ヴォレアスもVリーグを運営する日本バレーボールリーグ機構に対し、説明を求める要望書を提出している。
◇ ◇
――どこがおかしいと。
富山 意志決定のプロセスに疑問を持ちました。選手・監督・スタッフたちは1年間、昇格を目指して必死にやってきた。あくまで3月初旬の時点ですが、当時は無観客試合をしていたスポーツもありました。JリーグもBリーグも入れ替え戦を中止しましたが、対応を比較すると、苦渋の決断とは感じられない。
スポーツは心の豊かさを育む
――池田社長、経緯を教えてください。
池田 まず2月28日のVリーグの緊急理事会で延期が決まった時、「今後、中止する場合もある」という趣旨の文言がありました。不安になって問い合わせると「決定事項ですから文言は変わりません」とか「やる方向で考えているから安心してください」という対応でした。
ところが3月6日、「予定の会場が使えなくなり、他会場を検討する」との連絡が突然入り、その4時間後です、中止決定は。Vリーグ側と話し合うため、すぐに上京しましたが、間に合いませんでした。
たった4時間です。きちんと検討をしたのでしょうか。私なりに調べましたが、大いに疑問があります。
すぐに要望書を出して説明を求めましたが、回答は納得いくものではなく、4月2日に再度、要望書を提出しました。再要望書への回答はまだありません。
ただ、チーム側があれこれ要望すると、今の雰囲気では「なぜ自分たちのことばかり言うのだ」と批判されかねません。正直、もどかしい。
富山 中止するにしても、いろんな選択肢が考えられたはずです。頑張っている選手やスタッフ、そしてファンのことを考慮していないかのような手続きに問題がある。はっきり言えばフェアじゃない!
池田 そこです、とても悔しいのは。フェアはスポーツの大前提ですよ。
Vリーグには実質的に企業が抱えているチームが多く、実業団時代の思考が残っているとも感じました。
私たちは独立独歩のチーム。リーグの一員として言うべきことは申し上げます。バレー界やリーグ全体の繁栄のために。
――さて、これだけ長期間、スポーツイベントがない初めての経験をしています。スポーツが消えると、こんなに日常がつまらないのかと日々、感じています。
池田 新型コロナの感染拡大の前から言っている持論ですが、スポーツは暮らしや心の豊かさを育むと。収束後、私たちは必ず復活します。
……この続きは本誌財界さっぽろ2020年6月号でお楽しみください。
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