堅展実業 厚岸蒸溜所
道産のポテンシャルを生かし、世代を超えたウイスキーを
〝厚岸らしさ〟が 多方面から評価
食品原材料や酒類の輸出入を手掛ける「堅展実業」は1964年の創業。2016年10月に厚岸蒸溜所を設立し、ウイスキーの製造・販売を行っている。
樋田恵一社長は「ウイスキーを製造するにあたり、私自身が好きなアイラモルトを参考にしました。これは、スコットランド・アイラ島で造られたウイスキーのことです。厚岸町は寒暖差が大きく、冬は氷点下20度を下回り、夏は30度を上回ります。このような熟成環境と、海に近いことがアイラ島に似ていると感じました」と語る。
18年2月には初商品「厚岸 NEW BORN FOUNDATIONS 1(ニューボーンファウンデーションズ)」をリリース。その後、20年10月から「二十四節気シリーズ」のリリースを開始した。同シリーズは季節の暦を表す二十四節気をモチーフに、3カ月おきに新作が発売されるというもの。絶えず新作を世に送り続け、今年8月には16本目となる「小暑」を発売している。国内外のウイスキーファンから人気を博し、これまで出品した全てのコンペティションで高評価を得ている。
「〝厚岸らしさ〟を表現することに重きを置いてきました。ありがたいことに多方面から甘みやピート(泥炭)の香りが厚岸らしいと評価をいただき、浸透してきたと感じています。早いもので二十四節気シリーズは残り8本となりました。二十四節気の軸となる二至二分(冬至、夏至、春分、秋分)で集大成を表現したいと考えています。まだ詳細は言えませんが、同シリーズ終了後の展開も期待していてください」(樋田社長)
ウイスキーの味の決め手となる大麦の選定も極めて重要だ。国産ウイスキーは通常、海外産大麦を使用することが多いが、同社では道産大麦「りょうふう」を使用した仕込みに注力する。海外産に比べ収穫量が少なく、仕込みが難しいとされるが、同社では現在、全体の4割を「りょうふう」を原料とした原酒を製造している。
立崎勝幸所長は「りょうふうは、寒冷地向けに作られた大麦で、栽培する地域によって味が変わるのが特徴です。当社では富良野、網走産を使用していますが、ハッサクや夏ミカンなどの和かんきつの風味になるのが面白いです」と話す。
ジャパニーズウイスキーとしての伝統を守る
日本のウイスキーの発祥は1923年のサントリー山崎蒸溜所が起源とされ、今年で100周年を迎える。今ではジャパニーズウイスキーは世界5大ウイスキーの1つとして称される。
樋田社長は「ウイスキーの伝統文化を継承しながら、世界のウイスキーと勝負できるような独自性のあるウイスキーを造っていきたい。アイラモルトへの憧れやサントリーさん、ニッカさんへの尊敬はもちろんですが、私たちは厚岸でしか造れない小ロットの商品にこだわりたいと思っています。これがジャパニーズウイスキーの発展につながればうれしいです」と話す。
近年は、蒸溜所の稼働当時から目標としていた〝オール厚岸産〟の仕込みにも着手。22年5月には製麦棟を稼働させ、ドラム式の製麦機で、厚岸のピートを使った焚きこみや厚岸産大麦の試験栽培も行っている。
樋田社長は「厚岸産大麦は生産量が少なく、りょうふうよりもさらに仕込みが難しい。試行錯誤の段階で、まだ商品化はできていませんが物自体はできてきました。自信を持ってお客様に提供するためにも大麦の生産量を増やしていきたい。メーカーとしてのステップとして、第1に生産、第2に配合からボトリング、第3に30、40年先のために原酒をストックしておける経営基盤が重要と考えています。幸い従業員にも恵まれ、メーカーとしての総合力は身についてきました。今後も一愛好家として飲みたいウイスキーを追求しながら、30、40年後の人にもおいしいと言ってもらえるウイスキー造りを続けていきます」と前を向く。
蒸溜所長・チーフブレンダー
立崎勝幸氏
当社のウイスキーは2月、5月発売の夏に向けた商品は煙臭く、8月、11月発売のものは冬に向けて煙の香りを抑えています。レシピの作成作業自体は実は、発売の約1年半前には終わっています。これにはさまざまな理由がありますが、お客様の元に届くときにベストな状態のものを飲んでほしいからです。複数の樽から払い出された原酒は2~3カ月タンクの中で寝かせ、味をなじませてからボトルに詰めています。