「札幌市内の新社屋完成を機に2本社体制で“第二の創業”」上場IT企業ウェルネット・宮澤一洋社長の戦略
札幌の燃料販売会社を祖業に持ち、ネット決済代行サービスの先駆者として東証一部上場企業に登り詰めたウェルネット。今年6月の新社屋竣工を機に“第二の創業”を掲げ東京・札幌の2本社体制へ移行するという。その狙いとは。
ネットを活用した決済代行の先駆者
――地元・長野の企業を経て燃料販売業の「一高たかはし」へ入社し新規事業開発担当として、ウェルネットへ転籍。そこで発案したネット決済代行が、現在に至るまでの主力事業です。
宮澤 入社した当時、インターネットで見た、ニューヨークのジャズライブに衝撃を受けたことがありました。
そこから、形のないものをネットで売ろうと、漠然と思いついて。一高がガス代金の回収をコンビニで払えるようにするという話を聞き、それを汎用化できないかとも思いました。
コンビニ決済って、コンビニ側の狙いは集客ですよね。でも当時の決済システムは、コンビニも決済を依頼する事業者側も、多額の費用がかかり、件数が少ないと事実上不可能だった。
そこで、インターネットを使うウィンドウズのアプリケーションを開発して、無償で配布しました。
――システムにかける投資がほぼタダになった。
宮澤 そう。誰でもコンビニで決済できるようになった。
ただ、当時の都市銀行系子会社の下に入ってサービスを開始していたのですが、それがコンビニ側で問題になり、ある大手チェーンからクレームが入りました。
下請けでやっていることが問題でしたから、直接取引できればいいのですが、向こうは大企業、こちらは当時従業員16人の非上場ベンチャーですから、与信がない。そこで三井物産に出資していただくことで与信を通し、無事に口座を開くことができた。1週間で120社くらいと契約したかな。営業は私1人でした。
――ネット決済代行、というスキームの先駆者となった。
宮澤 もう一段事業が伸展したのは、決済にリアルタイム性を持たせたこと。
たとえば金曜日にコンビニで現金支払いをすると、お金を受け取ったという情報が受け取る側に伝わるのは、当時は翌週月曜の昼。その日に搭乗する航空券の支払いを現金でしても、乗ることはできず、クレジットカードでしか決済できなかった。
これを何とかしようと考えた時に、ローソンが「Loppi」という端末を置くようになった。これと航空会社を当社がつなげば、できるのではないかと。当初は門前払いでしたが、2年がかりで説得し門戸が開きました。
現在は決済代行をはじめ、送金サービス、バス料金のIT化ソリューションなどを幅広く展開しています。
コロナの影響は大きいが今後は追い風に
――コロナ禍の影響は。
宮澤 当社は航空、バス、鉄道といった交通機関の決済系で高いシェアを持っています。そのため、コロナ禍で人の移動が大きく制限を受けましたので、昨年3月からガクンと下がり、交通系部門については最大で前年対比8割減くらいまで売り上げは落ち込みました。
ただ、こういうことが起こると、一気に時計の針が回り始める側面があります。
事業が黒字の間、企業は新しいことを始めない。赤字になって、食えなくなって初めて動く。その意味で昨年、一気にデジタルトランスフォーメーション(DX)が進みました。
われわれの領域でいえば、バスや鉄道の定期券や回数券が、スマホで利用できるようになった。窓口に列をつくり対面で購入していたものが、デジタルなら100人でも200人でも一度に買えます。これがDXのいいところです。巣ごもり需要でEC決済が増え、送金サービスでは学生支援やチケット料金の返金にかなり利用されました。結果として前年比3割マイナスくらいに着地しましたが、今後も追い風になるでしょう。
地域密着型のプラットフォームを築く
――2004年に上場し、09年には親会社の一高たかはしを株式交換で子会社化。その上で事業売却し、本社を東京へ移転されました。
宮澤 当時も今も、事業の根幹はすべて札幌です。現在も協力会社を含め札幌で150人が働いており、東京には30人ほどしかおりません。
――今年6月、札幌市中央区大通東9~10丁目に新社屋が竣工予定です。
宮澤 厚別区の現社屋が手狭になったことや、人材採用の際に通いづらい場所だったことで、敬遠される課題がありました。
コロナ前の話ですが、札幌の都心部も東京と家賃はそう変わらない状況でしたので、思い切って自社ビルを建て、優秀なエンジニアを集めようと。
東京で同じことをすると、海外大手も含めた人材の取り合いになってしまうんですが、北海道に事業所を置くことはそういう意味でも適していた。
社屋の完成、移転と同時に、札幌も本社機能を置いて2本社制にします。創業の地である札幌、北海道の叡智を集め、原点に戻ろうという意思表示です。
――言わば第二の創業。
宮澤 第5世代移動通信(5G)やAIといった技術を通じて、これからは地方の公共料金や交通機関、教育、医療といった分野に対してユニバーサルサービスが広がっていきます。
そこでわれわれは、地銀やゆうちょといった地方金融機関とともに、ITと金融サービスが融合するフィンテックのプラットフォームを、地域密着で展開していきたい。
当社はJR北海道、北海道中央バス、北海道電力といった道内企業のユーザーに対して、既にサービスを提供しています。
他のスマホ決済と異なり、われわれは、モノやサービスを売る側にとって将来脅威にならないプラットフォームを築き、得られる手数料をこのプラットフォームに参画する金融機関など関係者とシェアしていく。すでに具体的な展開について検討が始まっています。
ユーザーである各企業にとっても、決済関連コストが下がるメリットがありますし、安心、安全はわれわれが担保します。
――地域密着型のプラットフォームが目指す将来像は。
宮澤 各企業それぞれで業務システムを運用し、それに対するコストを支払っていますが、それは固定費ですよね。
この固定費は、われわれのプラットフォームに参加することで、変動費化できる。
コロナ禍で大手企業が本社ビルを売却していますが、これも固定費を変動費にした例ですよね。これが今の経営者の考えていることだと思います。
たとえばバス会社がそれぞれ予約や運行、決済といったシステムを運用していたものを、当社が1つにまとめてプラットフォーム化すれば、すべてのバス会社は当社のサービスを使えばいいことになる。
その過程で、他社のシステムとの連携などもあり得るでしょう。その中でコアの部分は当社のものを使ってもらえればいい。
Maas(モビリティ・アズ・ア・サービス)という言葉がありますが、まさに次世代型の交通サービスとして、われわれのようなプラットフォームが立ち上がってくるでしょう。
最終的には各企業ごとに事業のコア部分が残り、それ以外は外に出してプラットフォームに参加する。そうした未来に向けて、この北海道、札幌から、未来に向けた投資をしていきます。
……この続きは本誌財界さっぽろ2021年6月号でお楽しみください。
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