「“原点回帰”で従来の方式を見直し、発想の転換で危機を脱出」柴田龍札幌観光協会会長の提言
新型コロナ感染症によって未曽有の影響を受けている飲食、観光業界。収束の先行きが見通せない状況のなか、何か起死回生の戦略や方策はあるのか。観光業界を代表して柴田龍氏に話を聞いた。
7つの大型イベントを担う札幌観光協会
――先ずは札幌観光協会の概要を教えてください。
柴田 設立は昭和11年(1936年)で、今年で86年目になります。戦前に組織され、当時は観光立国ではない札幌で、札幌駅の中に観光案内所をつくって運営していたそうです。そこでは観光名所の案内から情報発信までおこなっていて、振り返ると今の時代を見据えていた先駆者的な存在であったといえると思います。
協会の主な事業としては、「さっぽろ雪まつり」(2月)をはじめ、「さっぽろライラックまつり」(5月)や、福祉協賛大通ビアガーデンがある「さっぽろ夏まつり」(7月)、道内各地の旬の食材・ご当地グルメが集まる「さっぽろオータムフェスト」(9月)のほか、「さっぽろ菊まつり」(11月)「さっぽろホワイトイルミネーション」(同)、「ミュンヘンクリスマス市in Sapporo」(同)など、7つの大きなイベントの事務局をしております。
また、施設運営としてJR札幌駅北口の西側にある観光案内所(北海道さっぽろ「食と観光」情報館)を管理運営し、「さっぽろ羊ケ丘展望台」を直営で運営しています。そのほかにもWeb事業として「ようこそさっぽろ」という札幌の公式観光ウェブサイトを開設しています。
会員数は708社(4月14日現在)で、おかげさまでこのコロナ禍においても会員数は増えております。これは会員向けに情報発信しているセミナー活動などで会員さまから評価をいただいている結果だと思っています。セミナーは年に4回ほど開いており、今はコロナ禍における補助金・助成金関係や人材のマッチングなどをテーマにオンラインで開催しています。
――札幌観光協会の会長になられたのはいつですか。
柴田 2018年の6月からです。会長職は私で11代目になるのですが、就任して早々、胆振東部地震がありまして、それがちょうど「さっぽろオータムフェスト」開幕の前々日で、ブラックアウトの大変な経験をいたしました。結果的には1週間遅れで開催したのですが、地元の人を中心に多くの人が来ていただき、前年並みの来場で終わったと記憶しています。
今回のコロナ禍も私どもも初めての経験で、業種を問わず大変深刻な状況であると認識しています。災害や経済的危機、パンデミックなど、時代時代にいろいろなことが起こりますが、会長就任以来、危機管理の大切さは身に染みて感じています。
――他の観光協会との連携は。
柴田 私が会長に就任してからは各地の観光協会と直接連携を図ろうと活動しています。これまでは各協会ともその地域のみの活動が主であり、連携して動くということはあまりなかったと思います。初めに小樽観光協会と協力し、「雪まつり」「雪あかり」の共同ポスターを制作しました。また、オータムフェストでは、函館、旭川、帯広の各地のイベントと連携してスタンプラリーも開催しました。観光客のためにも広域連携は必要だと感じています。
同じ札幌に本部を置く北海道観光振興機構とは、先ほどお話しした札幌駅の観光案内所を共同運営しておりますし、雪まつりでは後援をいただいています。胆振東部地震の後でしたが、一緒に韓国へ出かけて誘致活動もおこないました。
――貴協会も昨年はコロナで大きな影響を受けました。
柴田 確かに大きな影響を受けました。昨年はさっぽろ夏まつりも基本的に中止となり、ミニビアガーデンでの開催を余儀なくされました。また、オータムフェストも大通公園でのイベントは中止となりましたが、オンラインショップで全国の皆さまに秋の味覚を楽しんでいただきました。今年のさっぽろ雪まつりも初めてオンラインで開催しましたが、「さっぽろ雪フォトまつり」や「さっぽろ雪まつり大歴史展」などの動画配信が好評で、アクセスは70万PVを数えました。今でも海外からのアクセス数は増えています。
“原点回帰”でこれからのニーズに対応
――今回のコロナ禍で見えたもの、また、今後の対策は。
柴田 今回のコロナでの教訓で一番感じたのは、「多様性」が大事であるということです。例えば今までは官民あげてインバウンド依存でやってきました。それはそこにニーズがあったからなのですが、そこに集中し過ぎていると、今回のコロナ禍でもわかるように対応できなくなってしまいます。今までやってきたところは大事にするのですが、大きくなり過ぎてしまい従来の精神を忘れがちになってしまっています。もう一度原点に返る「原点回帰」が必要だと思っています。
お客さまのニーズも時代とともに変わってきていますし、多様化してきています。今までと同じパターンでの繰り返しではダメです。冬季においては体験型、アクティビティ型の観光が流行っていますが、これはまさに冬の本来の楽しみ方の原点です。次のステップを目指して知恵を出し合い、分析もしながらすべてを見直していくことが大事ではないでしょうか。
観光のベースとなるのはお客さまのニーズです。それをいかに汲み取って、きめ細やかに提供できるのか。これまではマスツーリズムの一律のサービスという形が多かったのですが、今はお客さまのニーズも多様化してきているので、従来の形では対応できません。今は変革が求められています。
――具体的にはどのように。
柴田 イベントも作り上げたものではなく、地域密着というよりもそこの人々の暮らしや、その地域の歴史、文化、風習などが深く感じられるようなものにしていかなければなりません。さっぽろ雪まつりはそういう歴史から生まれてきたものなので、伝統を守りつつ大切にしていかなければなりませんが、地域の人々に支持されるイベントやまつりを発掘、開発していかなければならないと思っています。
――今後の課題は。
柴田 観光地に行って、歴史的建造物や景勝地をただ観るだけではなく、「なぜそこにできたのか」「どうやって創られたのか」などのいわゆる“ストーリー性”がほしいと思っています。そういうものを持って観光するのとしないのとでは、来た人にとっても楽しみ方が違ってくるし、付加価値をつけてくれるものだと思っています。各地域にはそれぞれ歴史や風習、文化があります。それを肌で感じながら知識も吸収していく。これからは歴史的な要素が重要だと思っています。
――最後に観光協会としてのPRを。
柴田 今年のオンライン雪まつりの最終日には大倉山で「スキージャンプ×冬花火」というイベントを開催しました。また、昨年の雪まつりは大通会場で大雪像の雪を再利用したクロスカントリー大会もおこないました。どちらもスキー連盟とコラボしての開催だったのですが、スポーツツーリズム的発想での取り組みでした。羊ケ丘展望台でも冬には「歩くスキー」や「チューブすべり」などアクティビティが充実し、無料体験をおこなっています。今後は環境に配慮しつつ、スノーリゾートの推進など北海道の特性、優位性を活かすこと、そして観光客の多様なニーズにしっかりと対応すること。そこが今後の課題だと思っています。
……この続きは本誌財界さっぽろ2021年6月号でお楽しみください。
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