橋本聖子東京2020組織委会長が語る「レガシー」とは?2030札幌五輪招致も直撃!
急転直下、橋本聖子参院議員は、東京オリンピック・パラリンピック組織委員会会長に起用された。東京大会の先には2030年の札幌五輪招致を見据える。本番まで100日を切り、橋本会長に意気込みを聞いた。なお取材日は4月15日、内容は月刊財界さっぽろ2021年6月号(5月15日発売)掲載時点でのもの。
課題解決の先進国になる気概が必要
――東京オリンピック・パラリンピック組織委員会の会長に就任されてから、約2カ月が経過しました。
橋本 私はオリ・パラ大臣とあわせて、男女共同参画・女性活躍も担当していました。
そちらを途中で辞するということに、つらい思いがありましたが、オリ・パラ担当大臣の時と同じく、組織委員会会長でも目指す方向はまったく変わりません。ここは受けさせていただくべきだと感じました。
――会長となり取り組んだことは何でしょうか。
橋本 オリンピック憲章にはジェンダー・平等の理念が定められており、「多様性と調和」は東京大会の重要なコンセプトの一つです。それにふさわしい組織にしていきたいと考えました。
まず、女性理事の比率を上げることでした。定款を変更して理事定数を増やし、12人の女性に加わっていただいたことで、女性の比率が42%となりました。
当初、「数だけ増やしても…」という批判的な声もありましたが、まずは形で表さなければなりません。
小谷実可子さんが組織委員会内でスポーツディレクターを務めています。小谷さんをトップとして、「男女平等推進チーム」を立ちあげました。
オリンピックの延期は誰も経験をしたことがありません。経験したものでなければわからないことを、しっかり発信するべきだと。そうした思いで「東京モデル」を構築していきます。
いま、世界全体が新型コロナウイルスという感染症対策に追われています。東京大会は、社会の変革の中での開催となります。
世界が直面する課題を解決するのは日本なんだと。日本がその先進国になるという気概が大切です。オリンピック、パラリンピックの価値は何なのか。あらためて問い直す大会でもあります。
――コロナ対策として、海外からの観客の受け入れを見送りました。
橋本 楽しみにしていた海外の方々には、申し訳ない気持ちです。来日できなくても、東京大会の素晴らしさを世界にどのように届けるのか。映像を通じて楽しんでもらえる仕組みづくりは、東京大会の運営を担当する組織委員会としての責務ですよね。国の協力を得て、主催都市・東京と連携する。東京都と組織委員会はいわば車の両輪です。
――五輪開催のためには、世論の後押しも必要になると思います。しかし、最新のマスコミの世論調査では、東京大会の中止、または延期の比率が多いという結果です。
橋本 東京大会開催に反対している方々の多くは、コロナの感染拡大を心配されてのことだと思います。
実はコロナ禍前は、開催してほしいという期待の声が大勢でした。まずは、コロナ感染への不安、対策への不満をどう克服するのか。安心、安全を最優先の大会にすることが第一です。
日々刻々と感染症の状況が変わり、地域によっても状況が異なります。
日本の医学、科学、テクノロジー、AIといったすべての技術を結集させる。コロナを正しく恐れて、正しい対応をすることで、安心、安全のもとに東京大会を実現することが可能なんだと。
そうすれば賛成の支持率は回復するだろうと考えています。
コロナ対策を含む大会のプレーブックは随時改訂されて6月には第3弾となり、きめ細やかな感染症対策を公表してきます。
自信と誇りを持って輝ける舞台に
――橋本会長もオリンピアンです。選手の思いを代弁できる立場でもあります。
橋本 東京大会の1年延期が決まった昨年春から、日程が決まる7月までは、先が見えない。まさにゴールの見えない状況でした。選手たちは、ものすごく不安だったと思います。
昨年7月のIOC総会で、丸々1年延期というスケジュールが決定しました。具体的な日程が決まったことで、目標は定まりましたが、次々に感染が拡大し、緊急事態宣言も発出されました。秋の国際大会も中止、延期になり、また不安が募り始めたのが、昨年の後半だったのではないでしょうか。
選手は4年に1度に目標を定め、毎日を過ごしています。私自身の現役時代を振り返れば、目標が1年ずれるというのは、大変なことなんです。コンディショニングを一からやり直さなければならない。筋肉、血液、メンタルといった肉体を改造するには手間がかかります。
――競泳の池江璃花子選手が日本選手権で優勝し、五輪出場が内定しました。多くの人たちの胸を打ち、五輪で活躍する姿を見たいと思うのも、人の心です。
橋本 池江選手の姿には、私も感動しました。最近では、ゴルフの松山英樹プロがマスターズでアジア初の優勝という、ビッグニューズが飛び込んできました。
私の高校の後輩でもある田中将大投手も日本に戻ってきて、「五輪に出られるなら出たい」と言ってくれています。
こうした選手たちの活躍、思いは、組織委員会として大切にしていきます。目標を定めてくれたアスリートが、自信と誇りを持って輝けるような舞台をつくらなければならない。新たな責任を感じ、身の引き締まる思いですね。
――札幌市ではサッカーの予選、マラソン、競歩が開催されます。
橋本 北海道に寄せる世界の期待は、ものすごく大きなものがあります。事前合宿地(ホストタウン)も含めて、道民のみなさんには、直接的なふれあいとは違う形になるかもしれませんが、おもてなしをしていただきたいと思います。
どのレベルで検査を実施するかなど、きめ細かくルール化して、プレーブックに盛り込んでいきます。それを読んでいただいた時に、道民のみなさんが安全なんだと感じてもらえるようにします。
アスリートに対しても、感染させないという、“思いやり”という距離を持って接します。その役割をしっかり果たすことで、次の地域の観光対策に結びつくのではないでしょうか。北海道にとっては、大きなチャンスになると思っています。
――5月5日には、マラソンのプレ大会「北海道・札幌マラソンフェスティバル」が開催されます。
橋本 代表選手もエントリーしているので、大変意義のある大会です。マラソンコースは、北海道の魅力が詰まったものです。緑豊かな北海道大学のキャンパスを疾走します。世界に誇る素晴らしいコースで、そのものが観光資源になります。世界のランナーは一度は走りたいと思うはずです。
――札幌市は2030年の冬季オリ・パラ招致を目指しています。
橋本 東京大会が持つ意味というのは、さまざな部分においてのレガシーなんですね。どういうレガシーを作り上げて、次世代にバトンタッチするのか。
東京大会のレガシーは30年にもつながります。そこがものすごく重要になってきます。すでに国内招致で札幌が勝ち残り、JOCとともに招致活動を進めています。
昨年、将来開催地委員会がIOCに設置され、さまざまな調査が進められています。東京大会のマラソン、競歩、サッカーの開催を成功させる力が札幌にあるんだと示すことが大切です。自信にもつながります。
スポーツの魅力、価値を引き出す
――30年まであと9年ですがあっという間ですね。
橋本 北海道という地域をどうやって世界に発信できるのか。スポーツの持つ力は、とても大きなものがあるのではないでしょうか。
北海道はスポーツ、観光、食が大きなキーワードです。
もともと日本は、スポーツが持つ魅力、価値を引き出すことが苦手だったのかもしれません。
ようやく国会のスポーツ議員連盟でも、大学や地域社会においてスポーツを、どのようにビジネス、観光に結びつけていくのか。そうした議論が、本格的に始まりました。
他の地域にない北海道の魅力は冬です。氷と雪、そしてウインタースポーツです。それとともに北海道は温暖化が進む中、いまや地球の財産とも言えるほど、
自然エネルギーの宝庫なのです。
IOCはカーボンニュートラルに取り組まない都市は、五輪を開催する場所に適さない、と位置づけています。
この9年間でエネルギー、環境問題に対して、北海道、札幌として取り組む姿勢をどう打ち出していくのか。与えられたチャンスでもあり、1つの大きな目標が日本にできます。
コロナのため東京大会で達成できなかった部分を、30年の札幌大会で実現する。夏も冬もふさわしい、やりきれる国なんだということを世界に示すことが大切です。東京大会のレガシーが、30年への架け橋になります。
コロナを乗り越えると同時に、新しい未来を見据えて、持続可能な地域をつくりあげていってほしいです。
――本日はお忙しいところありがとうございました。
……この続きは本誌財界さっぽろ2021年6月号でお楽しみください。
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