「まち、北海道、日本全体で核のゴミ問題を学びたい」寿都町長・片岡春雄氏の“願い”
寿都町で「核のゴミ」最終処分場選定の第1段階である文献調査が始まる。片岡春雄町長のもとには反対意見が殺到し、自宅には火炎瓶まで投げ込まれた。それでも調査推進の姿勢を崩さない片岡町長に、核のゴミ問題に対する思いを聞いた。
賛成派に「声をあげないでくれ」
――寿都町が高レベル放射性廃棄物、いわゆる「核のゴミ」最終処分場選定の第1段階である文献調査への応募を検討していることが明らかになったのは8月中旬のことでした。それから約2カ月後の10月9日、寿都町は原子力発電環境整備機構(NUMO)に応募書類を提出。NUMOは国への認可申請などの手続きを進めており、調査は11月中旬以降に始まる見通しです。この間を振り返った率直な感想は。
片岡 住民説明会では核のゴミに対する心配の声、文献調査に反対する声が想定以上に大きいと感じていました。
賛成の人の声というのはほとんど出ません。私は何人か賛成派の人から「そろそろ自分たちも声を出したほうがいいんじゃないか」と相談を受けましたが、無理に声をあげないように頼みました。
町民の間に溝ができること、そして議論が感情的になることを避けたかったのです。
なので賛成派の人たちには、すべての責任は私が取るし、悪いけど私の判断に任せて見守っていただけますかという話をしました。
つらいと感じることはあまりありません。この町のためにという思いはぶれていないし、5年前に肺がんで一度死を覚悟して、そこから生かされたいま、一つでも社会貢献をしたいと考えて出した結論ですから、そんなにしんどいことはないです。
――そうは言っても、自宅に火炎瓶を投げ込まれる被害にも遭いました。このことについてはどう感じていますか。
片岡 投げ込んだ本人は相当反省をしていて、届いた直筆の手紙には、本当に申し訳ないことをしたと書かれていました。
事件発生から3日ほどたってから、夜中でもちょっとした音ですぐに目が覚めたり、ナーバスになりました。私にとっては家族も町も両方大事な存在です。ただ、ここで引き下がるわけにはいきません。
――命を狙われてまでこの問題に取り組む原動力となっているものは何かありますか。
片岡 寿都町役場に就職するとき、父親から「お前の死に場所は寿都だ。(生まれ故郷の)旭川には帰ってくるところはないぞ」と言われて送り出されました。
私の場合は面接だけで中途採用していただきました。ほとんどの職員が筆記試験を突破して入っているわけで、そうした中で働くことはやはり肩身が狭い。他の市町村からくる職員もほとんどいなかったですから、まず地元の人以上に頑張らないと申し訳ないなという思いを抱いていました。
そんな私でも、この町では非常に楽しく過ごすことができ、この恩をどう返していけばいいのか常に考え、係長、課長、町長とそれぞれの立場で最善を尽くしてきたつもりです。私の感謝の気持を職員を通じて発揮したいというのが、一番の原点です。
――後志管内神恵内村でも応募の動きがあることが判明したときはどう思いましたか。
片岡 ほっとしました。孤軍奮闘していたので、仲間ができたと素直にうれしかったです。
本当に事前には知らなかったことですし、住民説明会で「寿都に続いて応募する町村は出るはずがない」と言われた次の日に、神恵内も検討しているというニュースが出るなんて、夢にも思っていなかったです。
――住民説明会で10代の参加者から「原発は“トイレなきマンション”と言われていますが、寿都は原発のトイレになってしまうのでしょうか」という質問を受けていましたが、そのときの心境は。
片岡 想定外の質問でした。この町を何とかしたいという素直な若者の思いが伝わってきて、すごく心にずしりと刺さりました。これから校長先生に相談しながら、小中高校生とも勉強会をおこなう時間を取らせていただきたいとも考えています。
――小中高校生向けに限らず、町内で今後おこなわれる核のゴミについての勉強会は、どのような形で進めていきますか。
片岡 それはいま検討しているところです。推進派の一方的な勉強会では当然、バランスを欠きます。反対を唱える有識者のみなさまの声もやはり聞かなくてはなりません。
最終的に町民のみなさまが推進派と反対派、両方の考えをしっかりと理解した上で判断するというのが一番民主的だと、私は考えています。
――その勉強会に呼ぶ反対派有識者の人選はどのようにおこないますか。
片岡 資源エネルギー庁に人選も含めて、情報を提供してくださいというお願いをしている最中です。
――エネ庁の推薦だと偏った印象を与えてしまうのでは。
片岡 エネ庁は推進派だけではなく反対派の人との議論も大事だと言っています。先日反対派の人たちによる勉強会に参加された北海道大学名誉教授の小野有五さんもそうでしょうし、エネ庁には偏った説明だけはしないようにと伝えています。
反対派には、すでに詳しく勉強されている人も多くいます。絶対に危険だという考えがある一方で、国がその危険への対応をどう考えているか自分も知りたいです。ここは推進派も反対派も一度フラットな状態になって、学びを積み重ねていくべきだと思っています。
ヨーロッパで核のゴミ最終処分場の整備が最も先行しているフィンランドですら、大差で推進派が多いかといったら、そうではないという話も聞いています。理解が深まるまでには、時間がかかると感じています。
地元・寿都にも一石を投じている
――札幌など都市部でも応募に反対する声は少なくありません。こうした町外の反応はどう見ていますか。
片岡 都市部だから、田舎だからではなくて、北海道全体で課題を学びましょうよと言いたいです。
核のゴミをどこかに処理しなければならないことはみなさんわかっていますよね。それが北海道であろうが、本州であろうが、どこになっても敬意を表すことができるように、落ち着いて議論することが大事だと考えています。
――道議会最大会派の自民党・道民会議有志による勉強会にも参加されましたが、道に求めたいことはありますか。
片岡 もっと幅広くこの議論を全国に広げていこうと発信していただきたいです。反対派の人たちは、核のゴミの処理については国と電力会社の責任であると言いますが、みんなで電気を使ってきた以上、それで済む話ではありません。国だって勝手に処理できるわけではない。知事会や市町村会の考えも重要な指針の一つになるでしょう。
寿都や神恵内だけではなく、少しずつでもいろいろな自治体に手を挙げていただいて、それをみんなで見守りながら、国全体で議論する。そんなムードになるよう、道が発信してくれればありがたいなと思っています。
――役場職員の負担は増えていませんか。
片岡 当初はひどい状況で電話がひっきりなしに鳴り、企画も総務もパンク状態でした。電話対応専門の職員も置いていますが、いまはだいぶ落ち着きました。
私は核のゴミ問題を議論のテーブルにあげることで、全国だけではなく、地元にも一石を投じているんですよ。役場職員も含めて、若い世代が10年後、20年後にこの町をどうしていきたいのか、そういった議論が沸き起こることもすごく大事ですから。
いま、職員組合の若手からも「立ちあがらなければならない」という言葉が出てきています。彼らは自主的に青森県の六ヶ所村にある核燃料リサイクル施設の見学にも行っています。
若い職員の中には、打ち合わせのときに「町長少し黙っていてください」という人もいます。私の提案はだいぶ修正されるし、なかなか意見が通らないときもある。職員みんなが自由に話をできるようになるまで、時間はかかりました。いまの職員との関係性は最高です。遠慮なく意見を言ってくれて、うれしいです。
次期町長選で公約に概要調査推進
――この間、片岡町長は「すべての責任は私にある」と言って行動してきましたが、首長とはどのような存在であると考えていますか。
片岡 大ざっぱに言うと、2905人の町民のみなさまが100%満足できなかったとしても、安心して暮らせるようにすることが首長の存在意義だと思っています。
やはりお金がないと町民の要求には応えられません。安全・安心のためにも、財源は必要です。特に寿都の場合は財源が非常にぜい弱であるため、他の町以上に、独自でこの地を生かした収入を確保していかなければならない。それが風力発電であり、ふるさと納税であるわけです。
さらに3つ目の収入源があれば最高なのですが、なかなか見つかりません。3つ目となる産業をしっかり成長させて、税収を伸ばすためには相当な資金がいります。
町独自では限界がありますから、国の有利な補助金などを霞が関に通ってゲットするトップランナーになることも、首長の重要な役割です。その際、スピーディーな判断も大切になってきます。
そして首長にとって大切な仕事は、できないことを住民のみなさんに納得していただけるように説明することだと考えています。つまりは、説明責任を尽くすということです。
――ではなぜ住民投票をしないのですか。
片岡 やらないということではないです。文献調査と概要調査については、調査といえどもあくまで地元や事業のことを知る学びなんですよ。そこであえて住民投票で結論を出すべきではないと考えています。
次の精密調査は、最終処分場に適している可能性が大だという結論に基づいておこなわれるので、そのときは住民投票も含めて検討すべきだと思っています。
――来年10月におこなわれる次期町長選には出馬しますか。
片岡 自分でまいた種です。次の選挙には出たいと考えています。公約には概要調査の推進を掲げたいです。そうなれば住民投票はいらなくなる。
ここまで取り組んできた責任は、最後まで取りたいと思っています。
……この続きは本誌財界さっぽろ2020年12月号でお楽しみください。
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