ヤブシタHDが伝統工芸品のショールーム「和モダンN6北円山」をオープン
伝統工芸品を展示・販売する〝ミュージアム型ショールーム〟「和モダンN6北円山」が5月30日に札幌市中央区にオープンした。九州地方の職人と連携した組子細工を建材として受注販売するほか、金属加工技術と組み合わせオリジナル家具なども製造する。主に設計事務所や建設会社向けに展示している。
技術を生かし本物の和モダンを提供
「和モダン」とは、伝統的な和の要素と洋風に近い現代的でスタイリッシュなテイストを融合させたデザインを指す。一般住宅でも和モダンのデザインを取り入れたものが増えており、和と洋が混在しながらも統一感がある内装に仕上がるのが特徴だ。
畳や障子、ふすまに合わせてソファやベッドなどを置いた部屋は機能的なだけでなく、重厚感や高級感、暖かみのある雰囲気を生み出す。インバウンド客との相性も良いことから、近年は旅館や飲食店でも多く見られる。
「ニセコで別荘を買う海外のセレブ層の中には、内装に和モダンをリクエストするケースが多いと聞く。国内でも経営者や資産家が自宅を建築する際、伝統工芸品の組子細工で家紋や会社のマークなどを入れたいというニーズがある。さらに〝本物志向〟のオーナーからは『インテリアとして用いる家具や照明器具、食器なども量販店ではなく伝統工芸品などからトータルコーディネートして選びそろえたい』という声を聞きます」と話すのはヤブシタホールディングス(本社・札幌市)の森忠裕社長。
同社は札幌市を拠点とする空調機や冷熱関連製品の部材メーカー。設計から製造、施工、メンテナンスまでを一貫で手掛け、特にエアコンや冷凍機などの室外機用関連部材では全国トップシェアを誇り、防雪フード、排熱対策用エアシェード、防音システム、遮音パネルなどを製造している。近年は防音と気流対策をセットにした部材が全国のデータセンターで採用されている。
これらの製品群は空調機本体の性能を維持し故障を防ぐだけでなく熱や騒音、振動を低減させる。生活環境の向上にも貢献できるほか、施工現場の効率や安全性も重視した独自の設計が設計事務所や建設会社からも支持を集めている。
森社長は「和モダンは今後さらなる市場拡大が見込める分野です。しかし、選べる場所や専門特化した企業が少ないため、実際には和モダンの空間をつくる上で設計事務所や建設会社は苦慮していました。そこで当社はものづくりの会社として、金属や木の加工、内装工事など空調部材のノウハウを生かし、国内初の『和モダン特化型事業』への参入を決めました」と語る。
日本の伝統工芸品を札幌市に集める
こうしてオープンしたショールームが「和モダンN6北円山」(札幌市中央区北6条西23丁目1番14号N6ビル2階)。近年は高層マンションが建ち並び高級住宅街〝北円山〟として知名度が高まっている地域だ。
このプロジェクトのため新会社「MONOづくり」も立ちあげた。店舗を統括できる人材として、和モダンへの理解や独自のセンスを有するわしこ氏を販売ディレクターとして採用した。
精力的に活動しており、九州や沖縄まで足を運び、全国の伝統工芸品の職人とネットワークを構築。現場で伝統工芸品の製造も学んだ。
わしこ氏は「伝統工芸品は全国にありますが、一カ所にこれだけの点数を集めて販売しているところは例が無いのでは。また販売だけではなく、伝統工芸品の魅力を再発見し、改めて伝える場所と位置付けています。それを生み出す職人たちへの敬意も込めました。国内外の全ての人に和モダンの魅力をあますことなく伝えられるショールームです」と語る。
ショールーム内は、黒い壁に畳敷きのワンフロアとなっており、内装やインテリア全てが和モダンで統一されている。各所にはガラスのショーケースが置かれ、伝統工芸品が美しくライトアップされる。美術館のような雰囲気も漂う。
「お客様との会話を大切にしているため、完全予約制で入場者は1日3組限定です。常時50~100アイテムを展示し、職人の作業工程などがデジタルサイネージでわかるようになっています。またQRコードで各国の通貨レートに合わせた料金が表示される仕組みです」(わしこ氏)
九州の職人と連携し組子細工を制作
特に力を入れている伝統工芸品として「組子細工」が挙げられる。日本古来の木工技術で、切れ込みを入れた木片をくぎを使わずに手作業で組み合わせ、美しい幾何学模様を作り上げるのが特徴。組み合わせ次第で麻の葉や七宝など数百の柄が出来上がる。
「組子細工が加わるだけで空間が和モダンに変貌する。重要な存在です。設計事務所や建設会社などの依頼に応じて、組子細工のふすまなどを建材として受注販売します。サイズやデザインなど完全オーダーメードです」(森社長)
制作を担うのは福岡県大川市の「木下木芸」。同社の木下正人代表は、家具の町で知られる大川市内で唯一、日本国内でも数少ない組子細工専門の職人。手掛けた組子細工は〝大川組子〟とも称される。
全国的に有名になったのが2013年に誕生したJR九州の高級列車「ななつ星in九州」の車内装飾を手掛けたこと。日本初の豪華クルーズトレインとして話題をさらった。
木下代表は大川市の木工会社などと「チーム大川」を結成して参加。その後、JR九州の豪華クルーズトレイン「或る列車」の車内装飾にも携わった。
また、北海道との関わりもある。JR北海道が今年4月に発表したクルーズトレイン「赤い星」「青い星」の内装工事にも参加することが予定されている。
木下代表は多忙な職人で、本来は新規客や個別の注文は受けていなかった。しかし、木下木芸の作品に魅了された森社長が同社をアポ無しで訪問。木下代表がその熱意と人柄を信頼したことから受託を快諾した。
木下代表は「私は組子細工を作品とは思っていません。全てお客様のためお作りする商品です。一切の妥協はしません。材料は杉やヒノキなど木の種類から産地、部位、時期などを吟味して仕入れます。模様も1つとして同じものは作りません。ふすまには引き手にも微細な細工をほどこすなど、見えない部分にもこだわってお作りします」と語る。
一方で職人による手作業のため生産数には限りがある。そこで森社長はより多くの人に組子細工の良さを知ってもらいたいと、自社の金属加工の技術を生かし、組子柄をレーザー加工機で再現した量産品も販売を予定する。
森社長は「木をレーザーでカットするので、正確には組子ではありません。しかし、量産できる利点があります。例えば、職人が作る組子のふすまの価格は100万円~200万円ですが、レーザーカット組子はその半額ほどで提供できます。是非ショールームで組子細工と見比べて検討してください。繊細で深みがある本物を買いたいという人も現れるはずです」と話す。
さらに加工技術を生かして日本の畳に合う家具も製作する。1枚板で作られた長机は、金属の足と組子柄の金属を埋め込むことで和モダンと馴染むデザインとなっている。
輸出にも推奨のドライ盆栽も販売
家具の分野では福井県越前市の日本を代表するソファメーカー「マルイチセーリング」とも連携する。同社の製品は新国立競技場のVIPルームや星野リゾートの温泉旅館ブランド「界」などに採用されている。ソファはオーダーメイドできるほか、短納期も可能。海外製品の場合は輸入に半年かかるものが、3カ月程度で届けられる。
ガラス工芸の「切子」も展示販売する。東京都の「江戸切子」と鹿児島県「薩摩切子」の2種を扱う。
「はっきりした柄の江戸切子に対して、ぼかしによるグラデーション生かした薩摩切子は同じ切子ですが実は製法が異なります。珍しい薩摩黒切子も扱っています」(わしこ氏)
岩手県の「南部鉄器」は、近年は沸かして飲むと鉄分(二価鉄)が補給できるという機能性にも注目が集まる。IH対応やおしゃれなカラーの急須などを取りそろえた。
また、福井県の「越前打刃物」は、切れ味や見た目の美しさで一流料理人から支持を集める。中でも「黒崎打刃物」は、1万本が予約待ちという大人気の包丁で、入荷から即売約というケースも珍しくない。
このほか神奈川県の「箱根寄木細工」や、伝統工芸ではないが福井県の大工が作る「越前寄木」も扱う。
注目を集めそうなのが枯れた盆栽を有効活用した「ドライ盆栽」だ。海外でも人気の高い盆栽だが、防疫の関係上、輸出の際は土壌の分離が必要で水やりなど日々の管理も欠かせない。ドライ盆栽はその必要がなく、メンテナンスフリーで、ランニングコストもかからない。自由に色付けでき、価格も安い。
森社長は「大量生産品であふれ、インターネットで何でも手に入る時代です。あえて実物に見て触れて、職人の息吹や伝統工芸品の素晴らしさを感じられるショールームを作りました。特に設計事務所や建設会社など法人のお客様に活用して欲しい。和モダンに関わることならワンストップでトータルコーディネートできます」と語る。
なお「和モダンN6北円山」の営業時間は午前10時~午後5時30分で日曜定休となっている。入場は完全予約制で1日3組限定のため事前連絡が必須だ。
予約は☎011・688・7230、またはホームページhttps://japanese-modern.co.jp/site/へ。
木片(左下)を手作業で組み合わせ、美しい幾何学模様のふすまや照明器具などを作り上げる
(上)ショーケースの中に切子などの伝統工芸品を展示。内装も和モダンで統一されている
(左下)越前打刃物の1つ黒崎打刃物を手にする森忠裕社長
(右下)豊富な知識で丁寧に接客する
越前打刃物(右)やドライ盆栽(左上)、南部鉄器(左下)などを展示販売する
展示品や内外装、接客などで和モダンの概念を具現化した「和モダンN6北円山」