林研一氏(大丸札幌店長 執行役員)「先義後利の精神で 文化育成を担いたい」
21年1月に大丸札幌店の8代目店長に就任した林研一氏。札幌再開発に向け、札幌市内や道内在住の顧客との関係性の深化や、インバウンドへのアピールに励む。林氏が語るこれからの百貨店のあり方とは。(2023年3月2日取材)
外国人のお客さまからも選ばれる店舗へ
――大丸札幌店を含めた近年の百貨店業界の現状は。
林 この20年間で道内の百貨店は12店舗閉店しました。札幌市内でも2店が閉店しています。百貨店の売り上げも3000億程度あったものが半減しました。
全国を見ても、この20年間はローカル百貨店を中心に撤退が相次いでいます。大丸札幌店は全国でも数少ない成功例です。
さまざまな要因がありますが、ローコストかつ効率運営が功を奏した点やJRタワーとの接続などの環境面は大きいですね。
余談ですが、私が札幌店で一番気に入っているのは夜の外観の美しさ。外から眺める度にほれぼれします。
21年1月に店長として札幌に来ましたが、それまでは親会社の「J.フロント リテイリング(JFR)」の関連会社にいました。インバウンド全盛期に百貨店事業から離れていたため、インバウンドがなくなった中での厳しい国内売上の状況に当初は苦戦しました。
札幌店はインバウンド比率が高い店舗でした。19年には総売上の12%程度、約80億円弱が免税での売上でした。
北海道は、世界中の人々にとってあこがれの土地です。特に札幌については、観光とショッピングの両方を兼ね備えているところが魅力。東京圏や関西地方では、観光とショッピングのエリアは分かれています。
中国人観光客がメーンだったコロナ以前は、同じ商品を一度に複数購入する方がたくさんいらっしゃいました。現在は個人旅行者が中心で、円安もあり、高級ブランドを購入される方が多いです。
道内のインバウンドについては、昨年11月ごろから一気に回復してきました。12月には、香港、台湾、韓国、シンガポールといった国々の方が増えました。今年1、2月にはタイの方が急増しています。1、2月の月間売上における比率を見ると、インバウンドが全体の7、8%というところまで回復しています。
昨年11月末には、JFRが主催で、タイのバンコクで「北海道展」を開催し、北海道のよさをアピールし、好評でした。タイの人々にとって、北海道は非常に親和性のあるマーケットです。
私たちは、札幌や国内の富裕層の方はもちろん、アジアを中心に、外国人の富裕層の方にとっても選ばれる百貨店を目指しています。
ただ、インバウンド市場には予測しづらい点が多々あります。当店を支えるのは国内需要です。道内や札幌市内の支持を得ることで成長してきましたから、重要なことだと考えています。
やっと開業から20年を迎えました。本来、百貨店は長い歴史をかけて地元に根ざしていくもの。地元で長年愛されてきた百貨店の伝統や影響は大きく、そこには到底かないません。
私たちも関西では「大丸さん」と呼ばれ、親しみを持っていただいています。札幌では歴史が浅い私たちですが、20年間でここまで来られたのは、開店前の準備室時代から多くのお取引先様のご協力と、まさにゼロから開拓をしてこられた先輩たちの強い“パイオニア力”があったからです。
インバウンドを除いた国内売上高で、名実ともにやっと地域の1番になれたのは21年度のことでした。
22年度の国内客の売り上げは、コロナ前を既に上回っています。外商に力を入れ、富裕層向けのラグジュアリーブランドや美術、時計などにしっかりと力を入れてきた成果が出ました。
ステラプレイスと隣接するという立地の影響もあり、当店のお客さまの年齢層は他店よりも10歳以上若いでしょう。
札幌でも、20代から40代のニューリッチ(平均所得水準がやや高い層)が増えています。この層の利用が当店を支えています。今後もこの方々に向けての取り組みを続けていきます。
一方、60歳以上のご年配層や、所得の中間層の客足は完全に戻ってはいません。日本の社会構造上、そもそも中間層が減少しているので、元の姿に戻ることはないかもしれません。
富裕層へのアピールを続けることは大事なことです。それだけに限らず、さまざまな層の方にとってなじみやすい店舗づくりを続ける。20周年を機に、改めて向き合っていきたいと考えています。それが次の戦略への足がかりになります。
……この続きは本誌財界さっぽろ2023年4月号でお楽しみください。
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