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2021年

伊藤秀二カルビー社長×高島英也サッポロビール社長「私たちが北海道農業のストーリーテラーになる」

伊藤秀二 カルビー社長
髙島英也 サッポロビール社長

 カルビーとサッポロビールは北海道で開発・育種した原料のおいしさを、全国、そして海外に広めている。商品づくりの原点である農業への熱い思いを、両社のトップが語り合った。

伊藤秀二氏 ©財界さっぽろ

「食」にかかわる企業同士の共通点

 ――お二人とも福島県出身で、福島高校の同窓だと伺っています。現在はどのような交流を持たれていますか。

 伊藤 社長になったのは私が先でしたが、何かでそれを知っていた高島さんが、サッポロビールの社長に就任する際、会いにきてくれたのです。それがきっかけで、お付き合いは始まりました。

 高島 北海道本部長のころに伊藤さんの存在を知り、その後もずっと覚えていました。2017年1月に社長を拝命し、程なくして会いに行きました。その年の年末には幹部向けの講演もしていただきました。

 伊藤 職場環境や人事制度など、会社を変えていくにはどうすればいいのかといったような観点の話をさせていただきました。同じ「食」にかかわる企業同士、構造や仕事には似たところがありますし、お互いに参考にできるところは多いと思っています。また、田舎の中の田舎に住んで高校まで通っていたという共通点もあります。

 高島 伊藤さんは飯野町(現福島市)出身で、私は保原町(現伊達市)。二人とも高校までは15キロくらい離れたところに住んでいました。

 伊藤 育った風景が一緒なんですよ。

 ――カルビーとサッポロビールは北海道に原料の生産拠点があるという共通点があります。北海道との関わりが始まったきっかけから教えていただけますか。

 高島 そもそもサッポロビールの創業地は北海道です。明治政府が北海道の農業振興に取り組む中で、農産物に付加価値をつけるために着手したのが、ビールづくりでした。

 原料となるビール大麦とホップは寒冷地であっても生育します。欧米視察をした人たちが産業革命後の大ビール工場を眺め、驚きと同時にこれだと確信したのでしょう。

 北海道の大地でビールを醸造し、東京、そして海外に送ろうという話もあり、外貨を得て日本を富ませようという明治政府の意図もあって、1876年(明治9年)、開拓使麦酒醸造所が札幌につくられました。

 その10年後に醸造所は民営化されましたが、その際に当時の北海道庁から「サッポロビール株式会社は民営化したとはいえ、本来、北海道の産業振興のために創立した会社なので、今後も極力北海道の原料を使うべし」という通達がありました。それからいまでも当たり前のように原料の育種は継続していますし、道産原料でおいしいビールをつくるための醸造技術も発展させてきました。

 伊藤 私どもは広島で生まれた会社です。かっぱえびせんで全国規模になり、その次に新しい何かを開発しようとしていたとき、創業者がアメリカで目の当たりにしたのはポテトチップスだらけの売り場でした。日本でもこの光景が当たり前になる時代がくると確信し、ポテトチップス事業を始める決断したわけです。

 そこで創業者が考えたのは、単なるメーカーになるのではなく、原料をつくるところから始めなくてはならないということでした。

 当時、いわゆるポテトチップス用のジャガイモを生産している人はいませんでした。当然、北海道が一番の産地ですから、上川地区や十勝地区などの農協さんに声をかけ、ポテトチップス用のジャガイモをつくってもらうところからスタートしました。

 カルビーポテトチップス発祥の地というのは、一番最初に工場を持ったオホーツク管内小清水町です。開町100年を迎えた18年には、記念事業として「復刻版」をセイコーマート全店で限定発売しました。

 契約栽培をした原料をわれわれが購入した上で、商品をつくる体制を長い時間をかけ構築してきました。

 1980年に設立した原料供給をおこなう子会社のカルビーポテトは、本社を帯広に置いています。まさに北海道を原料の供給地として、われわれは事業を進めています。

 北海道工場では基本的に道産ジャガイモを使用しています。全国的に見れば、ごく一部で時期によって海外から輸入したものを使っています。それは、天候などで原料不足に陥った際にも、市場全体の中でお客さまに商品をしっかりとお届けするために構築した仕組みなのです。

 私は「北海道でできたジャガイモはすべて買う」と話してきました。道産ジャガイモの使用量を輸入によって減らすことはあり得ません。逆に輸出できるレベルにまで、道産ジャガイモの生産量は増やすべきだと考えています。

高島英也氏 ©財界さっぽろ

農業が持続可能な社会を実現する

 ――両社には「フィールドマン」と呼ばれる専門家がいますが、具体的にどのような役割を担っている存在なのでしょうか。

 高島 なにせ、一緒に農業をしている気持ちです。ビール大麦もホップも農家の人たちと一緒に栽培や生育状況を確認している。それがサッポロビールのフィールドマンです。

 例えばビール大麦は上富良野でもつくっていますが、大産地は網走、佐呂間といったオホーツクエリアにあります。そこの生産者組合の人たちとは、土づくりのための輪作システムから一緒に築き上げてきました。

 農家さんの一例を挙げますが、大麦を収穫した後、雪が降ってくる前にエンバクをまき、10㌢くらいの芽が出てきたらたい肥と一緒にすき込みます。

 それで1年目が終わり、翌年は大豆を栽培して、空気中の窒素を土の中に固定する。ここで大麦を植えると窒素が多すぎるため、かん(※茎のこと)が長くなりすぎる。なので今度は根菜をまいてあげます。窒素成分をいい水準まで落としてから、その翌年にようやくビール大麦を植えます。

 生産者のみなさまからは、3年サイクルで輪作をすることによって土が強くなったと言われます。非常にうれしいですよね。

 しかも化学肥料の使用量も減ったので、ビール大麦のかんの高さが一定します。ですから収穫期の大麦畑は風が吹くとうねるんです。ものすごく美しい。
 フィールドマンを先頭に、われわれはこうした風景をつくることにも少しは貢献できているというようなことも感じます。

 伊藤 われわれのフィールドマンは40人ほどいます。気温が高くなったり、雨が少なくなったり、逆に多かったりといった気候変動に対応し、どうやって品質を上げていくか、収穫量を確保するかということを、毎年生産者とともに取り組んでいます。

 昨年の秋も、われわれのフィールドマンとともに栽培した生産者の収穫量は計画比98%を達成しています。新技術の導入やスマート農業など、さまざまな研究を一緒におこない安定的な収入を得られるようになる。そのことへの信頼はいただいていますから、今後も契約栽培は増えていくと思っています。

 高島さんも話していたように、北海道の輪作にはジャガイモはなくてはならない作物の一つです。つくり続けると同時に、消費も減らしてはいけません。持続可能な農業を実現するための活動を50年近く続けています。

 昔と比べ、生産地の労働力は著しく減少しています。収穫や選別作業が自分たちでできなくなったために、生産者がジャガイモ栽培自体をやめてしまう。そんなことになれば輪作体系が崩れ、結局は畑全体をやめることになってしまいます。

 こうした状況に対応するため、私どもは選別作業や収穫の仕事もおこなっています。生産者のみなさまに、ずっとジャガイモをつくり続けていただくための活動です。

 繰り返しにはなりますが、農業は持続可能な社会を実現するために、非常に重要な産業です。われわれは商品を通じて需要をつくり、生産量も上げていく。そこにかかわっている人、そして畑を豊かにしていく。こういう仕事をするために、フィールドマンは欠かせない存在です。

サッポロビールの伝説のホップ「ソラチエース」の香りを楽しむ2人 ©財界さっぽろ

北海道で商品の付加価値を上げる

 ――道内ではどのような研究開発をおこなっていますか。

 伊藤 われわれは帯広畜産大学と共同研究を進めています。基本中の基本である土の管理はもちろんのこと、新しいウイルスに耐性のある品種への転換も、今後10年ほどでやりきらなければならないことだと考えています。

 ジャガイモを原料に使用しているわれわれには、新しい品種でいい商品を開発する責任があります。例えばカルビーポテトが開発した「ぽろしり」という品種は、北海道で生まれたジャガイモです。土も強くするし、ポテトチップスをつくるのに形もいい。それから打撲などにも強い。新しい品種をつくるには10年以上かかりますが、そこまでやることが私たちの使命だと思っています。

 また、カルビーポテトでおこなっているジャガイモの研究や商品開発を他の作物でもできるようになれば、もっと農業を成長させることができる。

 私どもの創業者は未利用の資源をいかに有効活用するかという考えを基本としていました。生ものという性格を持つ野菜を加工して、ある程度長い時間、お客さまに楽しんでもらえる商品に変えていく能力が、われわれにはあります。

 一方で私どもの開発部門だけがいくらおいしい商品をつくっても、原料をどう確保するかも考えないと、ビジネスにはなっていきません。やはり原料開発から始めるという発想で商品をつくる必要があります。昨夏にはホクレンさんと連携協定を結びました。これまで以上に生産者が一生懸命つくった生の原料を無駄にせず、お客さまにお届けすることができるようになっていくと考えています。ジャガイモのみならず他の作物の課題解決も、ホクレンさんや生産者とともに考えていくことが重要だと思っています。

 高島 生産者とともに原料の付加価値を上げるための研究をしています。われわれのフィールドマンは育種研究者でもあります。東京農業大学オホーツクキャンパスや岡山大学などと一緒に、ビール大麦やホップの品種改良も進めているところです。

 交配という方法で新しい品種を誕生させるまでには、10年、15年と長い年月がかかります。サッポロ生ビール黒ラベルに使用している「旨さ長持ち麦芽」も、香りと味が変化しにくい性質を持ったビール大麦を研究・育種して生まれたものです。北海道では19年から「札育2号(商標名・きたのほし)」という品種の大規模栽培に成功しています。

 まさにわれわれが北海道にフィールドを持っているからこそ「旨さ長持ち麦芽」はできました。北海道は研究開発、そして商品の付加価値を上げるための大切な拠点となっています。

 伊藤 われわれは創業当時から「農工一体」という言葉を使い、農業と工業を連携させながら仕事をしてきました。北海道はまさしく「農工一体」の実現の地なのです。

高島英也氏 ©財界さっぽろ

本気で北海道の農業と向き合う

 ――両社とも北海道ブランドを海外へ発信する取り組みを強化しています。

 伊藤 北海道ブランドを国内で広めることも必要ですが、日本の人口はなかなか増えていきません。一方で世界中を見ると食料は足りなくなってくる。このことを考えると、高いポテンシャルを持つ北海道農業は海外に打って出ることも考えていく必要があります。

 例えば調味料を含め道産の原料を使用し、北海道でつくった商品である「じゃがポックル」は、中国や台湾、アジアの人たちにすごく人気があります。それをいま、日本のお土産品からアジアのお土産品へと転換しようと進めているところです。

 このようなことが今後さらに発展していくと、いままで欧米から原料を調達していた私どもの香港工場などでも、北海道のジャガイモをもっと使うようになるでしょう。

 日本の農業が輸出産業になる可能性はあるわけです。生産量を上げていけば、それがビジネスとしても伸ばしていけるという視野を持つことは、とても大事だと思っています。

 高島 サッポロクラシックもアジアの人たちや、スキーで北海道を訪れたオーストラリア、ニュージーランドの人たちによくお買い求めいただいています。

 農業の持続可能性を考えると、いまよりさらに視点を高くして、海外に打って出ると言うことは必須な考えになります。

 伊藤 北海道ブランドは日本のみならず、中国、アジアの人からの支持率も高い。われわれも全国に工場を持っていますが、やはりポテトチップスはイメージ的にも好感を得られる道産ジャガイモを使用し、北海道工場でつくった商品を中国に輸出しています。

 高島 大事なことは“なんちゃって”ではなく“本気”で北海道の農業と向き合い、商品をつくることです。われわれはまさに本気で北海道のために何ができるか考えてきた会社です。カルビーさんもそうだと思います。

 伊藤 食べ物は原料の影響度が最も高いわけです。工場でいくら頑張っても、もともとの原料の良しあしは手出しのしようがありません。最悪穫れなかったら、何もできなくなります。

 2020年は新型コロナウイルスの感染拡大が起き、世の中は激変しました。常に変化に対応していくため、考えていかなくてはなりません。

 じゃがポックルも、中国からの観光客が来なくなり、売れなくなりました。しかし、食べたいと言ってくれるお客さまは多くいらっしゃる。

 迷いましたが、じゃがポックルは積極的に輸出して、この商品が持つ価値をしっかりと伝えながら広めていくことを決めたわけです。

伊藤秀二氏 ©財界さっぽろ

原料を「彼女」と呼ぶ育種研究者

 ――北海道の農業が今後さらに発展していくために必要なこととは。

 高島 農業だけで考えるのではなく、もう少し高いところに視野を置くべきだと考えています。サッポロビールは食、観光、環境、暮らしの安全・安心という4つのフレームワークで、07年から道と包括連携協定を結んでいますが、このすべてに農業はかかわっている。われわれは商品やサービスを通じて情報発信をおこない、北海道の農業の魅力を引き上げていきたいと思っています。

 伊藤 われわれが改めて話すことはありませんが、農業自体はすごく進化をしています。これにスピード感を持ってついていくことが重要です。また変化するマーケットに対応する原料の開発や研究も止めてはいけません。もちろんわれわれも生産者を応援していきますし、一緒に成長していきたいと願っています。

 後継者の確保も難しい問題ではありますが、やはり農業は素晴らしい仕事であるということを、正しく広めていかなければなりません。われわれは小学校などで出張授業をおこなっていますが、単純に食品の栄養などを教えるだけではなく、ポテトチップスをつくる原点にいる生産者の尊さも、伝えていかなければならないと思っています。

 高島 北海道の農業のストーリーテラーですよね。例えばわれわれの育種研究者は、ホップを「私たちの彼女」と呼んでいます。それには根拠があり、ビールの原料に使うホップは雌花なのです。「彼女」というのはおもしろい発想だなと感心しました。これも物語として伝えられます。

 サッポロビールは創業100周年事業として、1976年にワイン事業をスタートしました。北海道では余市でブドウ栽培をしていただいています。

 赤ワインのブドウ品種に関しては、なかなか熟さない。通常はグリーンハーベストと言って、房を3割程度落とす作業をおこないます。その年の気候状況によっては、半分落とす。それでも色づかないときには、一房を半分にしてしまいます。生産者は収穫量を減らしてでもいいワインにしたいからと言ってくれます。そこにわれわれは感謝しないといけないし、自分たちが商品にもっといい物語を付与して付加価値を上げ、生産者に還元をしていきたいと思っています。

 伊藤 カルビーグループではジャガイモを「赤ちゃんのように扱おう」と呼びかけています。北海道で多くの時間と労力とお金を使って、ジャガイモを育ててきました。

 われわれはジャガイモとお付き合いをして成り立っている会社であり、北海道が大好きだということを、農業の物語とともにもっと広めていきたいです。


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