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酪農学園大学

岩野 英知学長
(いわの・ひでとも)1969年鹿児島県生まれ。96年3月酪農学園大学酪農学部獣医学科卒業。99年同大学院獣医学研究科博士課程修了。大阪大学たんぱく質研究所講師、日本学術振興会海外特別研究員などを経て2003年に同大学獣医学部講師、07年に准教授、16年に教授に着任。23年5月より現職。

将来を支える人材育成が使命。新たな農業や酪農も提案

――昨年で90周年を迎え、理事体制を刷新しました。

岩野 昨年5月に学長に就任しました。北海道は酪農で恵みを得ながら発展し、本学も農業や酪農に特化した大学として、その歴史とともに歩んできました。その北海道も人口減少が進んでおり、今ある産業が将来成り立たなくなる可能性もあります。第1次産業ではなるべく人の労力を軽減した新しいやり方の模索が重要です。

本学は農学の実践的な学びにおいて国内トップクラスの設備をそろえ、農業や食品、獣医業界などに強いネットワークを持っています。今後も北海道の基幹産業を支える人材を輩出することを使命と考え、新たな農業や酪農の形を学べる科目を開設しています。

――就職の状況は。

岩野 どの学類でも就職率が94%(94・7~99・1%)を超えています。食品関連の企業を始め、農業や林業にかかわる企業や公的機関、医療機関など、本学での学びや取得資格を生かして活躍している卒業生が多く、業界に必要とされる人材育成ができているのではと感じます。

――2つの学部(学群)について教えてください。

岩野 農食環境学群を再編することを目指しています。農業では高齢化や担い手不足のため、DXやAIといったデータサイエンス分野の活用が、他の産業に比較して遅れています。また、第1次産業は経済的にも厳しい状況にあります。そのため、従来の農業の専門的な知識、技術に加え、ドローンや衛星技術を活用した新たな農業技術とともに、深い経済の知識や経営のスキルを身に付けた人材の育成が急務であり、農業とデータサイエンスを融合した新たな学び(新たな教育課程)を、2026年からスタートできるよう検討を進めています。こうした状況下でこそ、酪農学園大学が産業をリードして社会の課題解決に貢献していく必要があると考えています。

獣医学群では 以前からヨーロッパ獣医学教育機関協会(EAEVE)の国際認証取得を目指してきました。獣医学教育の国際的な認証機関で、カリキュラムや設備、卒業する獣医師の質などを評価対象に、獣医学教育の質を保証します。

今年7月の最終審査を通過すれば、国内の私立大学では初めて。また、単独の大学による取得は国公私立大学初となります。国内の獣医学教育の質をヨーロッパ諸国と同等レベルに向上させたい。特に畜産物を扱う公衆衛生の分野では、国際的な基準で畜産物の輸出入が可能になります。

――貴学の考える〝進化する大学教育〟とは。

岩野 18歳人口の大きな減少が見込まれる30年までに、大学全体の再編を目指し、学類の再検討や農学以外の分野の取り入れも検討します。

全国から北海道に学生を集められる大学を目指し、さまざまな大学との連携も視野に入れていきます。文部科学省が進める「成長分野をけん引する大学・高専の機能強化に向けた基金による継続的支援」で理学、工学、農学の設置が推奨されており、首都圏の有名私立大学にも農学部の新設が予定されています。多様な学生とともに学ぶことで本学の学生の視野が広がることはもちろん、道外出身の学生が卒業後に道内で活躍することも期待します。

――地域や業界への問題提起も行っていきます。

岩野 獣医師の多くがペット業界に偏り、生活に不可欠な公衆衛生の分野の人材が不足しており、そういった分野に人材を集める方策が必要です。例えば、動物看護師の職域を現在のペット限定から獣医師の監督のもとで公衆衛生分野も扱えるようにするなど、資格制度の見直しについても関係機関と協議が必要だと考えています。

また、4つの大学がある江別市の文教地区は企業や飲食店の立地が制限されています。地域の産業の活性化や学生街ならではの活気あふれる街づくりも必要ではないかと考えています。4大学と江別市長、副市長で協議し、地域活性化も目指していきます。

敷地は135万平方㍍。畜産や農業などを実践的に学べる設備がそろう
獣医保健看護学類で飼育する犬とともに、実践的な学びを行う