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桂林耳鼻咽喉科・中耳サージクリニック

桝谷 将偉 院長
ますや・まさより/2006年旭川医科大学医学部医学科卒業後、道内基幹病院に勤務。10年北海道大学病院耳鼻咽喉科・頭頸部外科学入局。その後函館中央病院医長、仙台・中耳サージセンター勤務などを経て16年開業。

道内唯一の日帰り難聴手術で患者に利益をもたらす

 自らが考案した「耳科手術」によって日帰りの難聴治療を可能にした桝谷将偉院長。入院が一般的な難聴手術に一石を投じた人物で、学会での症例発表など、全国の医師に向けた同術式の周知にも尽力している。

 手術が適用となるのは慢性中耳炎や外耳狭窄症、真珠腫性中耳炎、耳小骨奇形などに起因する各種難聴。従前の手術は入院を伴う全身麻酔下で行われ、耳の裏側を大きく切開する必要があり、身体的、経済的負担も大きくなる。

 一方、桝谷院長が行う耳科手術は耳鏡と呼ばれる特殊器具と顕微鏡を使用し、耳の深部を6~7㍉ほど切開して患部にアプローチすることを基本としている。病変の進行が見られる場合には、耳前部に約1~2㌢程の追加切開を行うケースもあるが、どちらにせよ局所麻酔下での施術となり、日帰りが可能だ。

 術中も患者の意識があるため、聞こえの状態を本人に確認しながらその場で患者に合わせた術式が選択可能。再手術のリスクを低減できるほか、全身麻酔自体がリスクとなる高齢者や各種合併症を持つ患者にも負担をかけずに手術を行えるという。

 ただ、同術式を体得しているのは道内で桝谷院長のみ(2024年7月末現在)。

 桝谷院長は「耳は指紋と同様に、一人ひとり形状が異なります。複雑な耳の深部にアプローチするわけですから、手術では高いレベルでの手技が必要となります。また、術中に患者に少しでも痛みが生じれば手術を中断せざるを得ないわけで、局所麻酔の技術も必要になります。この再現性の低さが普及を妨げる理由です」と説明する。

 それでも「医療現場において、最も優先されるべきは医者の都合ではなく患者の利益です。こうした医者としての信念を持つ後進を育成していくことも、これからの私の使命だと思っています」と話す。

 学会発表などを通して桝谷院長の施術を見聞きした耳鼻科医も増え、大学病院や地方病院などから患者を紹介されるケースも多い。インターネットで情報を収集し、道外から患者が訪れることも珍しくないという。

 16年の開院から、難聴の日帰り手術は700例(24年7月末現在)を超えるなど、手技にさらなる磨きをかけ「万全を期すために、手術前には入念にプランを練っています」と慢心はない。

 手術費用は保険適用で70歳以上であれば1万8000円ほど、70歳以下でも数万円で済む。

「加齢が原因の老人性難聴は手術の適用とはなりませんが、自己判断してはいけません。治せる難聴かもしれませんので、まずは受診を」と桝谷院長は呼びかける。

 

難症例にも対応している
手術前夜のシミュレーションは欠かさない