札幌大学
「場+コミュニティ」で、新しい価値を創造していく
――コロナからの転換期を迎えていますが、大学側としてどのように考えていますか。
大森 コロナ禍の社会変化を新たな大学教育の発展の契機と捉えています。地方創生、デジタルを活用したグローバル化、リカレント教育、大学間連携など新しい教育環境を創出することができるのではないでしょうか。大学での目標は、人間力を涵養し、生涯学び続ける姿勢と、そこで必要な基本的なスキルやマインドを身につけることです。そのため、主体的・能動的な学びの機会を充実させることが必要だと考えています。
――新しい取り組みを始めているのもその一環でしょうか。
大森 そうですね。ここ数年、企業や自治体を含む地域との関わりが深くなっており、連携によるキャリア教育や、学生たちが地域に入り込んで行うフィールドワークを重視した活動が増えています。
代表的な事例としては3つです。本学を会場にした「西岡まちの灯り」や、大学祭との併催で行った「まちづくりフェスタ」などのイベント開催。地方自治体や高校などとの包括連携協定による地域との関係強化。経営やマネジメントに関する実践的学習、起業体験の場の創出、社会人基礎力の向上、就業意識の醸成などを目的としたアントレプレナーシップ(起業家精神)教育の実践です。授業の枠にとらわれない活動も活発で、学生組織にも発展しています。
――「西岡まちの灯り」では、スタンプラリーやクイズなどを行い、地域の子ども達に好評だったと聞いています。
大森 地域の方がたくさん集まって、アイスキャンドルの点灯式も大変好評でした。また、地元産のホップを使って開発された西岡の地ビール「西岡水源池通りビール」を製作しました。学生食堂に地域の方が集まったほか、豊平区長も参加していただき、高評価をいただきました。
――自治体との連携も進んでいるようですね。
大森 次々と連携先が広がっていますね。むかわ町、美幌町、栗山町、夕張市、留萌市のほか、新たに木古内町や松前町などとの連携も話が進んでいます。本学は野球部やサッカー部、卓球部、柔道部などの部活動が盛んですが、合宿地として当該自治体に学生が出かけ、教育のお手伝いをしたり、地域の活性化に貢献する活動を行っています。今後も発展させていきたいですね。
――アントレプレナーシップ教育ではどのようなことを。
大森 本学OBの大西亮人氏が経営するパン専門店「こっぺ屋」(グラウンド・マークス)と連携し、昨冬からスタートしました。学内特設店舗で曜日別の売上を分析し、売れる曜日を導き出して、それに基づいて適切な営業日を決めるというような実験的な取り組みをしています。
ほかにも「ニッポンスリッパ」さんと「ぎゅっぱー」という製品を開発して販売するなど、外部との連携が進んでいます。「せっかくなら学生に会社を作らせてはどうか」と思っていて、いずれ実現するかもしれません。
――こうした取り組みもあって、就職率も上昇しましたね。
大森 昨年度は94・4%です。ただ、優先するのは就職率ではなく「何になりたいのか」「どんな仕事をしたいのか」を学生に問い続けることです。大学は地域から学生をお預かりして、育てて地域に戻すという役割もあります。そのためにもキャリア教育には今後も力を入れていきたいですね。
――カリキュラムで言えば、レイターマッチングの受け入れが拡大しているようですね。
大森 レイトスペシャライゼーションという言葉で広まってきていますが、本学では2013年と早い段階から導入しています。入学後に専攻を選んだり変更する制度で、本学では30%にあたる約240人がこの制度を活用しています。カリキュラム構築は学生自身が行いますが、本学では履修モデルの提示や、全専攻横断型の「みらい志向プログラム」も開講しています。これまでは「食・観光」「データサイエンス」「アイヌ文化スペシャリスト養成」の3つでしたが、今年度から「リスクマネジメント」と「スポーツマネジメント」も加えており、将来を見据えた履修がしやすくなっています。
――目まぐるしく社会が変わる中で、どのような人材に育ってほしいですか。
大森 本学の建学の精神である「生気あふれる開拓者精神」を持つ人。学生は失敗が許されるので、いろんなことに挑戦し、失敗を経験して、先の見えない未知の時空間をブレイクスルーする力を身につけてほしいですね。
――今後の大学教育とはどうあるべきだと考えていますか。
大森 大学教育には「知識の伝達」と「人間的な成長」という2つの目的がありますが、学生同士や学生と教員の交流がないと達成できません。大学にはキャンパスというリアルな〝場〟があり、求心力豊かな人的ネットワークもあります。つまり、大学だけが持つ「場+コミュニティ」によって、新しい価値を創造していくことができます。これが大学教育のあるべき姿だと考えています。