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2022年

いまこそ企業を“筋肉質”に変える大チャンス!

堰八義博 北海道銀行 特別顧問

21年春、北海道銀行特別顧問の堰八義博氏は、経営の第一線から退いた。今後はこれまでの経験を生かし、若手経営者たちの力になりたいと考えている。そんな堰八氏に、コロナ禍との向き合い方、道内経済回復策を聞いた。

「ボロは着てても心は錦」と思える組織に

 ――21年6月、北海道銀行の特別顧問に就任されました。若手経営者を応援したい、とおっしゃっていますね。

 堰八 日本企業の96%は同族経営という統計があります。その中で最も多いケースは、親から子に社長業を譲るというものです。

 北海道銀行では、同族間で経営を承継したり、まもなくその予定がある若い経営者を対象に、1年間のインターバル研修「道銀経営塾」を開講しています。1996年からスタートし、トップマネジメント能力を身につけることが目的です。

 卒業生は600人を超え、私も頭取、会長時代に講話、懇親会を含めて、歴代の塾生と多く接してきました。

 また、札幌商工会議所や未来経営研究所、道銀、北洋銀行が主催する「北海道経営未来塾」の講師を務めさせていただきました。ここでも多くの若手の経営者と交流する機会を得ております。

 そこで気付いたことは、若手経営者はそれぞれ経営上のいろいろな悩みを抱えていますが、意外なことにこれをざっくばらんに打ち明ける対象が周囲に少ないということです。

 私も、現職の銀行経営者の立場だと、やはり相談しにくかったと思いますが、いまは第一線を退きました。これを契機として、銀行経営の経験、あるいは多くのお取引先の経営に接してきた立場で、北海道を担う若手経営者の兄貴分的な相談相手になりたいと。みなさんの頑張りの背中を押したいと考えるようになりました。

 ――数カ月経過しましたが、実際に相談されるケースもありますか。

 堰八 たまたま経営未来塾の分科会で、お話をさせていただく機会がありました。その場で私なりのお答えをさせてもらった次第です。それ以外でも個別に「こんな事業を考えていますが、どう思いますか?」というような相談も受けています。

 ――堰八顧問は48歳の若さで頭取に就任されました。トップとして何を大切にし、組織を率いていこうと考えましたか。

 堰八 まず、頭取に就任して思い立ったことは、北海道銀行の「アイデンティティ」とは何だろうということです。行内の気持ちを一つにさせるために、組織で明確化させようと思いました。

 新入社員から役員まで、アイデンティティを意識して行動すれば、おのずと方向性が見えてきます。どんなに苦しい時でも、水前寺清子さんの歌詞「ボロは着てても心は錦」と思える組織にしたかったですね(笑)

 当行が創立した頃、道内は北海道拓殖銀行の1行体制でした。拓銀は鉄、石炭といった重厚長大型の基幹産業への融資ウエートが高い状況にありました。

 戦後復興期に道内の中小商工事業者の皆さんは、もう一つ銀行をつくろうという機運が盛り上がりました。各事業者が少しずつ出資して、51年に当行が設立されました。

 私は「道民の手作り銀行」と表現しており、これが北海道銀行のアイデンティティです。私はこれを浸透させるために「どさんこバンク運動」と銘打って展開しました。

 コンセプトは「泥くさくとも道民の皆様から真に愛される銀行」を目指すことにしました。いまでも、その運動は続いています。

 もう1つは、若い職員の意見を積極的に取り入れることです。一般的に年齢を重ねて人生経験が豊富になってくると、「変化」を好まなくなってきます。若い世代は時代の流れに敏感で、発想も豊かです。これを経営に生かさない手はありません。

 仕事が終わった後、本店ビルの社員食堂で、無礼講懇談会「八夢茶どうぎん」を開催しました。お酒を片手に、若手行員と役員をあわせて40人くらい出席して、いろいろな話を聞きました。

 当行では上期、下期の年2回、全店の支店長会議を開催します。その前日、20代の若手行員を20人程度募って、「道銀ヤングフォーラム」を開催しました。2つほどのテーマを設定し、若手行員同士でいろんな議論をします。翌日は支店長会議にオブザーバーで出席し、経営に対する関心が高まる工夫をしました。これらのイベントででた若手行員の意見のいくつかは、経営施策に反映させました。

 ――ポストコロナにむけて、道内経済の回復には、どのような視点が必要でしょうか。

 堰八 いまの道内経済は宿泊・飲食サービス業、運輸業では相当落ち込んでいます。これらの業種はコロナ禍前、比較的堅調に推移していました。そのギャップが大きく、大変な状況というのが現状です。一方、幸いなことに建設業、農畜産業、製造業は比較的堅調に推移しています。とくに建設業は裾野が広いので、北海道経済のベースはしっかりと保たれています。ガタガタの状況ではないことがまだ救いです。

 北海道の強みの1つであった観光関連が回復すれば、いい状況になると思います。いま、ワクチン接種がどんどん進んでいます。発症・感染の抑制効果がでてくることで、今年度後半には北海道経済は急速に改善していくことが期待できます。

 観光では、インバウンドがコロナ禍前の水準に戻るには、3年程度はかかると思われます。国内客は「ワクチン接種証明書」や「陰性証明書」を活用すれば、年内にも動き始めます。そうなれば「北海道」と「沖縄」はもっとも注目されるエリアです。

 これから冬を迎えます。道内観光の課題は、冬の国内観光客の集客です。冬枯れの穴を埋めてくれたのがインバウンド客でした。当面見込めないため、冬期間の国内客向けの魅力ある商品づくりがカギになります。あわせて、数の上では圧倒的に多い道内観光客の需要を喚起する施策も求められるところです。

 3月にアジアで初めて北海道で開催されたATWS(アドベンチャーワールドサミット)は、コロナ禍で残念ながらオンライン開催となりましたが、幸いなことに23年に再び北海道でリアル開催されることが内定しました。これはアフターコロナの欧米からの観光需要取り込みに絶好のチャンスとなります。

©財界さっぽろ

コロナ禍を「変化」の絶好の機会と捉える

 ――企業経営者はコロナ禍をどう捉えればいいでしょうか。

 堰八 まず、「コロナで失った需要」「コロナで持ち越されている需要」、そして「コロナでの新しい需要」を的確に分析することです。その上で、企業戦略を練ることが重要であると思います。

 多くの企業が資金繰り対策でコロナ関連融資を受けています。資金が厚めに手当されたこともあり、使われずに口座に滞留しているケースも相応にみられます。先ほどの分析に基づき、ポストコロナ戦略として、前向きな投資に使えるようになれば、なお一層北海道経済は活性化されてくるのではないでしょうか。

 ――最後に将来の北海道経済を担う若手経営者にメッセージをいただければ。

 堰八 コロナ禍で、何人かの若手経営者と意見交換をしました。多くの経営者が、自分の会社経営のあり方についてスピード感を持ち、見直しをする必要性を認識しています。つまり、ウィズコロナ、アフターコロナでは世間一般の価値感が変わる可能性が高いと感じています。

 むしろコロナ禍を「変化」の絶好の機会と位置づけ、全社員参加型での社内制度改革や業務改革を進め、筋肉質の会社づくりの契機にしていただきたいと思います。

 これからの時代、企業に対する評価は、単に業績の良し悪しだけではありません。「環境配慮型経営」「健康経営」「社会貢献」といった観点も、不可欠となってきます。

 このような取り組みを積極的に行う企業が、社会から高い評価を得て、ひいては人材の確保にもつながっていくものと確信しています。


……この続きは本誌財界さっぽろ2021年11月号でお楽しみください。
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せきはち・よしひろ/1955年5月26日、札幌市生まれ。札幌旭丘高校、法政大学卒。79年に北海道銀行に入行。人事、経営企画畑を歩み2003年、全国の銀行頭取では最年少の若さで頭取に就任。15年から会長となり、21年6月から現職